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ロンドン市長が渋谷のシェアサイクルに乗りに来た理由

デジタル技術を駆使した自転車、東京五輪をにらんだ普及の礎

文:十代目 萬屋五兵衛 11.19.2015

「シェアサイクル」のサービスが世界の都市で広がっている。後れを取った日本だが、東京・渋谷でデジタル技術を駆使した新型のサービスが始まっている。シェアサイクル先進都市・ロンドンの市長も視察した新サービスに迫る。

秋晴れの10月中旬、若者の街・原宿に、金髪で恰幅(かっぷく)の良い紳士と、短髪で日焼けしたスーツ姿の日本人男性が街角で談笑していました。

東京であればそれほど珍しい光景ではありませんが、周りに目を移すと、カメラを持つメディア関係者らしき多数の人たちが取り巻いています。

実はこの紳士、英国・ロンドン市長を務めるボリス・ジョンソン氏。そしてスーツ姿の日本人男性は、この4月に就任した渋谷区長の長谷部健氏です。

この2人の話題は、自転車。しかしただの自転車ではありません。「シェアサイクル」という自転車共有サービスです。

このシェアサイクルは最近日本の各地でみられるようになりましたが、これまでの「レンタル自転車」とは少し違います。相違点の1つは、借りた場所と返す場所が違っていてもかまわないという「乗り捨て」ができるところです。

既存のレンタル自転車は、借りたのと同じ場所に、指定された時間までに返す必要があります。一方、シェアサイクルはもう少し自由度が高く、一定の区域内に設定された「ポート」あるいは「ステーション」と呼ばれる、指定の自転車置き場に返せばよいのです。例えるならば、自宅近くのレンタルビデオ屋で借りたDVDを、会社の近くにある同系列のレンタルビデオ屋でも返せるというイメージです。

このシェアサイクルのポート、都内でも少しずつ見かけるようになりました。通勤・通学だけでなく、買い物やお出かけなど「ちょっとそこまで」と“ちょい乗り”で活用している人もいて、認知度が高まりつつある雰囲気です。

実はボリス市長のいるロンドンは、このシェアサイクルを一足早く導入し、街の交通風景を一変させた都市なのです。

世界の主要都市で受け入れられつつあるシェアサイクル

ロンドンにシェアサイクルが登場したのは、ボリス市長就任直後の2010年のこと。ボリス市長が導入を決定し、2012年に行われたロンドンオリンピック/パラリンピックの開催とともに、「第三の交通機関」として広まりました。

その頃ロンドン市民の間では「オリンピック/パラリンピックが開催されたら電車の混雑や交通渋滞が悪化する」という懸念が高まっていました。そこで提案されたのがシェアサイクルだったのですが、健康や環境問題に対する意識の高まりと相まって「手軽で、地球に優しく、健康的で、渋滞や混雑を避けられる」という利点が着目され、シェアサイクルが受け入れられたそうです。

ロンドンのシェアサイクルの名称は「Cycle Hire」。メインスポンサーが金融系大手のBarclaysなので「Barclays Cycle Hire」とも言われています。

英ロンドンのシェアサイクル「Cycle Hire」

シェアサイクルの先駆けは、フランス・パリの「Velib(ヴェリブ)」だと言われています。米国のニューヨークにある「citi bike」も有名で、ポート(ステーション)の数は多く、そこここに見られます。

フランス・パリの「Velib」
米ニューヨークの「citibike」。こちらのスポンサーは米citiグループである

ほかにもドイツ・フランクフルトの「Call a Bike」やオーストラリア・メルボルンの「Bike Share」、台湾・台北の「YouBike」など。先進国の主要都市には導入されていて、生活者の足、あるいは国内外の観光客のサポート役として使われています。

ドイツ・フランクフルトの「Call a Bike」
台湾・台北の「YouBike」

このように各都市で根づいているシェアサイクルですが、東京そして日本をみると、普及度という面で言えばかなりの後れをとっている格好です。

視察の目的は独自開発のサービス

日本各地に存在する同種のサービスの多くは、市町村などの行政機関が主体になって運営をしています。東京も同様で、23区内では港区、千代田区、江東区、世田谷区、練馬区などがシェアサイクルの運営を行っています。サービスの特性上こうした行政機関が主体となるのは当然といえますが、ひとつ残念なことがあります。それは、サービスの運営範囲が、その行政区間内に限られていることが多いのです。

つまり、借りた自転車を他の区では返すことができないのです。例えば代官山で借りて中目黒で返す、ということができないわけです。一部の隣接した区同士がサービスを連携させる方針を打ち出しているのですが、筆者が見ている限りではサービスとしてスムーズに連携しているとはいえない印象があります。

ロンドンなどの例にならって東京都で考えれば、区単位ではなく都が主導すれば、この問題が解決に向かうのでしょう。

実は、都知事の舛添要一氏が昨年、ロンドンを訪問しています。オリンピック/パラリンピックに向けた街づくりの参考にするためです。その際に桝添氏は「オリンピック開催までに自転車専用レーンの距離を(現在の)2倍にする。シェアサイクルも広げる」という主旨のことを語っています。

自転車専用レーンは、自転車そして歩行者が安全に通行するためにとても重要な存在ですので、距離が増えるのは歓迎すべきことでしょう。しかし、もし東京都がオリンピック/パラリンピックに向けて市区横断的なシェアサイクルの仕組みを整えるとなると、自転車専用レーン以上の財政的な負担がかかることが予想されます。ですから都の行政にシェアサイクルの改善を期待するのは、現状は難しいかもしれません。

しかし、そんな状況を打破しようとチャレンジしている民間企業が登場しました。

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