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カナダ人が経営する和包丁専門店の魅力

主婦もプロも御用達、大阪・新世界から海外へ、包丁文化の発信源

文/写真:須田 泰成 04.14.2016

大阪・新世界に、カナダ人が経営する包丁専門店がある。街の活性化を支援するだけでなく、海外への包丁文化の発信源ともなっている。店を訪れ、その魅力を探った。

野菜の味を良くする和包丁の切れ味

森さんとの待ち合わせは、新世界のシンボル・通天閣の真下だった。

「意外と知られてないんですけど、真下から見上げた通天閣がアートなんです」

この風景には驚いた。

筆者は、実は大阪出身。新世界のことは詳しい方だと自負していたし、この通天閣の真下も数えきれないほど通過してきたはずだが、この風景には気づかなかった。

「知ってると思い込んでいる場所でも発見がある。それが街の楽しさですよね」

森さんの言葉に深くうなずきながら、通天閣を背に東へ。一歩進むごとにカオス度が増してくる。大衆演劇の小屋、一見客は無理そうなスナック。そして、目指す包丁専門店は、昭和の匂いが濃厚なホテルの斜向かいにあった。

「TOWER KNIVES OSAKA(タワーナイブズオオサカ)」

中には、鋭く光る和包丁が、ところ狭しと陳列されていた。

漫画『子連れ狼』を読んで日本を訪れた店主のビヨンさんは、1992年に初来日。日本人女性と結婚して永住を決意。導かれるように堺の和包丁の切れ味や美しさに惚(ほ)れ込んだ。やがて、海外輸出の手伝いをするように。新世界に包丁専門店・TOWER KNIVES OSAKAをオープンしたのは2011年。それから5年、堺を中心に日本全国の和包丁を取り扱い、その魅力を国内外に発信し続けている。

TOWER KNIVES OSAKA店主のビヨンさん
店内にあった、ビヨンさんを子連れ狼風に描いたイラスト

あいにくビヨンさんは、長期出張中。米国人スタッフのロドリゲス・ジョーさんが応対してくれた。彼もビヨンさん同様、日本人女性と結婚。大阪の立ち飲みをこよなく愛しているという。

ロドリゲスさんによる和包丁実演の様子

堺の和包丁を使ってニンジンを切り分けるデモンストレーションを見せてくれた。和包丁の切り口が見事なまでに真っ平らなのに驚いた。自分で切ってみると、さらに驚いた。普通の包丁なら少し力を入れなければ切れないニンジンが、和包丁だと軽く包丁を落とすようにするだけで、ストーンと切れてしまう。切り口は鋭いだけでなく、瑞々(みずみず)しい。続くトマトは、刃の重みだけでストーン、切り口は信じられないほど滑らかだ。

「いい包丁で切った野菜は、味が違うんですよ」

ロドリゲスさんは語る。

筆者がいる間も、白人系の外国人、それから日本人が店にやってきて、他のスタッフにいろんな質問をしていた。どうやらプロの料理人らしかった。

「大阪のある和食の名店の料理人さんは、『堺の和包丁は普通の包丁に比べて値段は高いけど、切れ味が良いので、仕込みの時間を毎日30分、短縮できる。味も良くなるし、作業効率も良くなる。これは値打ちがある』、と」

和包丁を売るということは、本物の食文化、産業を支えるということと同じだと感じた。ちなみに、同店のスタッフは、英語だけではなく、フランス語、デンマーク語など多言語に対応。海外に包丁の機能や文化を伝えるアンテナショップの役割も果たしている。

伊東食堂