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日本の昆布だしは、世界最先端の味付け技!【だし文化・前編】

大阪空堀の老舗・こんぶ土居の底力を深掘りする

文/写真:須田 泰成 04.21.2016

江戸時代、大阪の食文化の土台となったのが、北海道の昆布である。昔ながらの商いを守る昆布店が今、世界の一流シェフから大変な注目を浴びている。出汁(だし)文化の奥深さを追う、前編。

全て国産、原材料表示が極上のエンタメ

こんぶ土居は、大阪市営地下鉄・谷町六丁目駅から徒歩2分ほどにある空堀商店街の中にある。「谷町」という地名は、相撲や芸能、アートなどの個人後援者(パトロン)を意味するタニマチの語源で、江戸時代、谷町四丁目の相撲好きの外科医がいたことから来ている。古くから町人文化が栄えた土地であることがわかる。

こんぶ土居の外観

また「空堀」という地名は、豊臣秀吉が作った水のない堀が由来で、これも安土桃山時代の名残と古い。界わいは、第二次世界大戦の空襲の被害を免れたため、風情のある戦前からの町屋が多く残る。

実は、筆者は、こんぶ土居を訪れるのは初めてではなかった。

昔、空堀商店街から歩いて5分ほどの大阪府立清水谷高校に通っていたこともあり、多くの級友が、いまでもこの辺りに住んでいる。2年ほど前、なんとなく懐かしく界隈を訪れた時にこんぶ土居さんを再発見。以来、年に3、4度くらい足を運ぶようになっていた。

ここを訪れると、必ず購入する品がある。それは「梅すこんぶ」「えのき昆布」「天然真昆布」の3点。スーパーやコンビニの梅酢昆布が以前から好きだったが、ここの「梅すこんぶ」を初めて食べた時の衝撃は、いまも忘れられない。

肉厚な昆布の食感、噛(か)むほどに口中に旨味と喜びが広がる。そして素朴な梅肉の香味と酸味、ほのかな酢の刺激。一片、一片に心が癒やされ、袋が空になると思わず再会を誓っている。

これが筆者が愛する「梅すこんぶ」

同じことは、「えのき昆布」にも言える。こちらは、ごはんのお供、酒のアテ。エノキと昆布の個性が溶け合う旨味成分が鼻腔(びくう)に充満するたびに、日頃の憂さがひとつ消える。そのままでもいいけれど、いろんなチーズとあわせるとヤバイ。この上ない酒の友である。

こちらがヤバい「えのき昆布」

いつも感動するのは、味わいと、そして、もうひとつ。なにげなくパッケージを裏返した時の原材料名表示。それはもう、文字面を眺めながら白ご飯をお代わりできるレベルだったりする。

例えば、梅すこんぶは、以下の通り。

『原材料名:昆布(天然真昆布)、酢(米・米麹・甘酒)、梅肉・みりん(もち米・米麹・米しょうちゅう)・砂糖・だし(天然真昆布・かつお節・塩)』

原材料は全て国産。自然なもの以外は一切なく、左下にこんな文章が。

『【おいしさいろいろ】調味料(アミノ酸)や酵母エキスなどで人工的に強く味付けした食品を常食されている方には、当店の製品は物足りなく感じられることがあります。自然の素材と技術が醸し出す滋味をお楽しみください。』

ちなみに、えのき昆布は、このような原材料名表示。

『原材料名:えのき61%、醤油(大豆・小麦・塩)16%、水飴(甘藷澱粉・麦芽)10%、昆布(天然真昆布)3.7%、味醂(糯米・米麹・米焼酎)3.4%、酒(米・米麹)3.4%、濃縮だし(水・鰹節・昆布)2.5%』

こちらもお見事。全て国産。原材料表示が極上のエンタメで、それぞれの味覚の楽しみもさることながら、シンプルな原材料表示に魅せられる。

こんぶ土居のアイデンティティとも言うべき「天然真昆布」

そして、最後の「天然真昆布」なのだが、これが、こんぶ土居のアイデンティティとも言うべき製品なのだ。

真昆布とは、函館を中心とする道南地域で産出する、昆布の中の昆布。川汲浜は、中でも最も良質な産地で、こんぶ土居の昆布は9割以上が、ここから来る。

天然真昆布で作った出汁

パッケージの裏側に書かれている通りに、この昆布で出汁をとるのは、以下の手順だ。

(1)1リットルの水に10gの真昆布を2時間以上つけるだけ(長い方が良い)
(2)火にかけて、沸騰寸前で昆布をさっと引きあげるだけ

この通りにするとスゴイことになる。できた出汁は、とろりと薄い昆布色。ひとくち口に含むと、刺激のない優しい味覚ながら、濃厚な滋味に心うたれる。まさに「自然の素材と技術が醸し出す地味」が体中の細胞を静かに波打たせるのが、わかる。

これは、もはや命の出汁。

しかし、こんぶ土居の素朴な商品づくりは、北前船が運行していた江戸時代と何ら変わりないものなのである。