聞き手/田中 太郎(日経エコロジー編集長)

これからは本当に強い会社しか生き残れないとの危機感を持つ。空調関連のコア技術を磨くとともに、IoT時代の技術を取り込む。

十河 政則(とがわ・まさのり)
1949年北海道出身。73年小樽商科大商学部卒、ダイキン工業入社。秘書室長、取締役専務執行役員、社長兼最高執行責任者(COO)などを経て2014年から現職。人事、総務などを長く担当してきた
写真/行友 重治

――6月に発表した戦略経営計画の「FUSION(フュージョン)20」では、5年後の2020年度にグループ売上高3兆円、中間地点である2018年度に2兆5000億円にする目標を掲げました。

十河 まず5年先に我々のグループはどのような発展の方向を目指すのかを示し、その次に実現するための重点戦略は何かを定めて、その重点戦略を実行計画に落とし込むというやり方で決めています。5年先の定量目標を定めても、世の中はものすごく変化してしまいます。だから、売上高3兆円は今はイメージです。しかし、3年先の定量目標は実現にこだわっていきます。これはコミットメント(約束)です。

■ 戦略経営計画「FUSION20」の目標
戦略経営計画の「FUSION20」では、5年後の2020年度にグループ売上高3兆円にする目標を掲げた。

中長期の発展と短期利益のぎりぎりの接点

――大きな方向を定めて、テーマを掲げ、具体的な戦略を策定するというのは分かりやすいです。

十河 「FUSION」を日本語にすると「融合」です。何の融合かというと、まず短期の利益には徹底的にこだわっていきます。しかし通常、短期利益にこだわると投資を抑えたりするではないですか。それでは企業の発展はありません。中長期の発展と短期の収益を両立させるために、ぎりぎりの接点をどこに求めていくかが1つの融合だと考えています。

――環境技術を基盤にIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの新技術を組み合わせて、新分野に事業領域を拡大するとしています。中長期の目標達成には、次の技術をどう育てるかが重要ですね。

十河 空調や化学といった既存の事業をどう発展させるかだけではなく、パラダイムシフトが進むなかで新たな事業にどう挑戦していくか。二本立てで考えていかなければなりません。両方とも、底辺にあるのは技術力とそれに基づく差別化商品です。掲げた重点戦略に、これをいかに展開できるかです。

――記者発表では「これからは逆風の中での経営になり、強い企業しか生き残れない」と強調していました。

十河 我々が想定している以上に、この数カ月でも変化が起こっていると感じています。

――例えばどんなことですか。

十河 グローバルで考えると業界再編の大きな波が来るとみています。「FUSION20」は1年ほどかけて作ってきましたが、その当初は思っていなかったことです。それに加えて、2014年ぐらいからの米グーグルの動きが気になります。

――グーグルは2014年に家庭内の温度を制御するサーモスタットのメーカー、米ネストを買収しました。

背景は、2015年11月に新設したテクノロジー・イノベーションセンターに飾られたオブジェ。壁に貼り付けたエアコンの部品の影が、走り出す人を形作っている

十河 それ以前からですが、グーグルがIoTでいろいろなものを制御したら、空調は一機能部品にしかならなくなるのではないか、全部を押さえられたらどうなるのだろうという意識を持っています。今回、新分野として「エネルギーソリューション事業」や「空気・空間エンジニアリング事業」を掲げているのは、そういうことを視野に入れています。コアになる技術はセンサーやIoTだと思いますが、これらはうちが弱いところです。だから、テクノロジー・イノベーションセンター(TIC)を構えました。外部との連携を含めて新技術開発のスピードを上げないと、いろいろなリスクがあると感じています。

――2015年11月に完成したTICは、700人規模の技術者が集まる、次の技術を育てるための総本山です。ノーベル化学賞を受賞した根岸英一・米パデュー大学特別教授ををフェローに迎えるなど、グループの外にも知恵を求めるのも特徴ですね。

十河 これだけ技術の進化が速いと、自前の技術だけで成長を続けるのは無理です。だから、産学、産官、産産を問わず、技術提携、連携をどううまくやっていくかが課題になります。場合によってはM&Aで技術を買うということも含めて、使い分けをしながらやっていかなければ遅れてしまうんだろうと思っています。

 ただし、全部を外部に頼っているとコアがなくなってしまいます。自前にこだわっていかなければならない技術があります。それに、社外のリソースを生かしてオープンイノベーションをやろうと思ったら、コアがないと絶対に人は来てくれません。だから、コアの技術を磨き続けることが非常に重要だと思っています。空調でいえばインバーターやヒートポンプ、冷媒制御などがうちのコア技術ですが、これを磨き続けなければなりません。

 TICは、単なる技術開発だけではなく、新しい事業を見つけ出し、挑戦する上でも重要です。技術をどう事業に結びつけるかを考えないと、象牙の塔になってしまいます。

将来の成長を支える技術開発の拠点として2015年11月にテクノロジー・イノベーションセンターを設置(左上)。機械が発する電磁波を測定できる電波暗室(右上)など最先端の設備を備える