事業を行う地域の人々と協力し、環境を守り、ひいてはその地域の価値向上につなげる。三菱地所のCSRの取り組みは、まさに本業を力強く支えるものだ。

 人々が暮らす「まち」を事業の舞台とする三菱地所にとって、建物が立地する地域の環境保全と、そこに住む人々との交流は本業に直結する重要なテーマだ。以前から農林業を体験するCSR活動「空と土プロジェクト」を実施している。新たに始めた2つの取り組みは、三菱地所グループの基本使命である「まちづくりを通じた社会貢献」をより深く追求する、本業に即したCSR活動だ。

 三菱地所本社は、皇居外苑濠の目の前、丸の内エリアにある。まさに大都会・東京の心臓部だが、このエリアは同社にとって主要な事業地域であり、皇居はいわば“地域のシンボル”ともいえる。

“地元”の環境保全に取り組む

 皇居外苑濠は近年、水質悪化が進み、水草などの生息が困難な状況になっている。濠の環境保全を丸の内のまちづくりにとって重要なテーマと考えた同社は、2017年10月に環境省と「皇居外苑の自然資源活用に関する協定」を結ぶ。これを基に、環境省、日本自然保護協会、東邦大学理学部保全生態学研究室、千葉県立中央博物館と連携し、皇居の濠の水辺環境改善と生態系再生を目指すCSR活動「濠(ほり)プロジェクト」を始動させた。

 プロジェクトのきっかけは、同社が共同開発に携わった大手門タワー・JXビルの地下に、民間では初めて皇居外苑濠(大手濠)の水質改善を行う浄化設備を導入したこと。三菱地所の本社は隣の大手町パークビルにあり、両ビルは“皇居のほとり”を意味する「大手町ホトリア」の名で一体開発された。両ビルをまたがる形で、生物多様性保全をテーマとした「ホトリア広場」という公開緑地も整備している。

 「丸の内は私たちにとって本社がある、まさに地元。その地元の魅力をさらに高める、事業と密接に関わったCSR活動である点が、濠プロジェクトの大きな特徴」と環境・CSR推進部 環境ユニットリーダーの吾田鉄司氏は語る。

 大手門タワー・JXビルには環境に関する情報発信スペースを設け、濠から採取した水草を水槽で展示している。水槽のコンセプトは「お濠がきれいな状態になったら」。6種類の水草を育てているが、このうち4種類は泥の中に休眠していた種子を、研究機関が復活させたものだ。

 「水槽の水草は千葉県立中央博物館から提供していただいたものですが、そのうち社員自身でお濠から水草を採取してみようという動きが生まれた」(吾田氏)。

 2018年5月、実際に生き物を採取するイベントが開催された。グループ社員やその家族約30人が大手濠に入り、水草や小型魚類・エビ類などの水生生物、さらに水底の泥を採取した。水草や生き物は酒樽を再利用したコンテナビオトープに移植して育てた。その結果、水草が生育するとともに、ヤゴが羽化する様子なども確認できた。

■ 皇居外苑濠の水辺環境を改善
大手町パークビルに本社を構える三菱地所にとって、皇居は“地元のシンボル”。環境省と締結した「皇居外苑の自然資源活用に関する協定」の取り組みの一つとして、大手濠で社員たちが生き物採取を行った。採取した生物は、酒樽を再利用したコンテナビオトープで生育させ、大手町ホトリア敷地内の緑地や人工池に放流した
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 7月にはビオトープで育った水草や生き物をホトリア広場の人工池に移植するイベントも実施した。このイベントには社員に加え、丸の内で働くオフィスワーカーも参加した。まさに“地域”のイベントとして実施されたのだ。この他、皇居の自然を学ぶ大人のためのセミナーを7月に「丸の内朝大学」で4回開催。地域の人々の参加を促し、皇居の生き物の希少性や保全の意義を伝えた。

 環境・CSR推進部長の菊川嘉彦氏は、イベントに参加した感想をこう語る。

 「水質浄化をしている大手濠では藻が元気に育ち、網ですくうと生き物もたくさんいた。隣の濠とは水質も、生き物の数もまったく違う。濠プロジェクトは始まったばかりですが、こうして実際にお濠に入ると、効果があることを実感しますね」