相馬 隆宏

投資家が統合報告書で最も注視しているのは経営上のリスクだ。リスクにどう対応するのか、経営陣がコミットしているかを示すことが欠かせない。

 統合報告書では、投資家が最も気にしているリスクへの認識を示し、対策を説明することが基本になる。将来の成長戦略を語る上でも、リスクに全く言及していないものは信用されにくい。

 「企業には、成長機会だけでなくリスクも開示してほしい。投資家はリスクをネガティブにとらえると思っているかもしれないが、リスクを開示してその対応策に取り組む姿勢が確認できればむしろ評価する」と野村アセットマネジメント責任投資調査部シニアESGスペシャリストの宮尾隆氏は言う。

 リスクをはじめとして、投資家がどんな情報を求めているかは対話を重ねることでしか分からない。統合報告書の制作を手掛けるエッジ・インターナショナル(東京都港区)の梶原伸洋CEOは、「最初から統合報告書に載せる財務や非財務情報を選別するのは難しい。どの情報が適切なのかは投資家との対話を何年も続けていくことで気付く」と話す。

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が委託する運用機関など投資家に高く評価されている統合報告書は、ニーズを的確に捉えた情報開示に努めるとともに、対話を継続して改善につなげている。

カリスマ社長の陰にリスク

 「私は、非常に『不器用』だと自覚しています」──。経営トップのこんな告白が印象的な統合報告書を出しているのが伊藤忠商事だ。同社が報告書で示したのは、経営トップの交代というリスクへの対応である。

 2010年から社長を務めていた岡藤正広氏は、2016年3月期に連結純利益で総合商社初の首位を勝ち取るなどらつ腕を振るった。統合報告書を作成していた2017年、岡藤氏が交代するのではという話が浮上した。

 名経営者が代わっても伊藤忠は成長を持続できるのか。投資家の懸念を払拭しようと、表紙をめくってすぐの見開きページに掲載したのは、初代の伊藤忠兵衛氏から岡藤氏まで、歴代経営トップの顔写真。そのすぐ上には、「受け継がれてきた理念」と大きな文字で記した。

 企業の理念やDNAが過去から現在まで脈々と受け継がれていることを示し、今の伊藤忠の強さは岡藤氏一人の力によるものではなく組織として発揮しているというメッセージを打ち出した。

 伊藤忠商事の成川清一・IR室長代行は、「岡藤が築き上げてきたものがすぐに崩れるものではないことが分かったと投資家も理解してくれた。結果的に株価も下がっていない」と話す。同社の統合報告書は、GPIFが委託する運用機関が「優れた統合報告書」に選んでいる。

■ 伊藤忠商事はガバナンス強化をアピールする
伊藤忠商事の業績を大きく伸ばした岡藤正広会長CEO(写真の一番右)。統合報告書では、ガバナンスの実効性をアピールする