聞き手/藤田 香

世界の投資家は統合報告書への関心を急速に高めている。価値創造ストーリーの説明にSDGsをどう活用すればよいかコツを聞いた。

――統合報告書を発行する日本企業が急増しています。2012年の約60社から、2017年末には約340社に増え、2018年末には400社を超える勢いです。ただ、量は増えたが、質には改善の余地があるという意見も聞かれます。

リチャード・ホヴィット
2016年からIIRCのCEO。統合思考や長期投資の重要性を提唱している。IIRCに参加する前は、欧州議会の議員を20年以上務め、企業の責任を担当。非財務情報開示のEU指令の主要な立案者でもある。G20政府と議論する世界のビジネスリーダーから成るB20の委員や、EUのSDGsマルチステークホルダー会合の委員も務める(写真:中島正之)

リチャード・ホヴィット氏(以下、敬称略) 日本で統合報告書の発行が当たり前のビジネス習慣になりつつあるのは素晴らしいことです。「質の改善が必要」という意見については、2つの点で同意できません。

 まず、日本の統合報告書の質が世界的に劣っていることを示す証拠はないからです。統合報告書作りは新しい動きであり、他国も学んでいる最中です。年々品質が改善されています。私の知る日本企業は海外の機関投資家からの要望で統合報告書を作り始め、高い評価を得ています。

 2つ目は、投資家の問題です。すべての投資家が統合報告書を使いこなせるレベルに達しているとは限りません。長期的なリスクマネジメントに関心がない投資家もいます。

 日本では2017年、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が本格的なESG投資を始めたことで、非財務情報開示の重要性が強く認識されるようになりました。GPIFからの要請を受け、運用機関が統合報告書をこれまで以上に読むようになりました。日本の運用機関の70%が統合報告書の重要性を認識していると聞きました。これに対してコーポレートガバナンス報告書の重要性を認識しているのは50%にとどまります。統合報告書が重要だという認識が広がってきたのは良い兆候です。

統合報告はガバナンスに役立つ

――日本だけでなく、世界的にも統合報告書の発行は増えていますか。欧州では非財務情報の開示を義務化するEU(欧州連合)指令が施行されました。

ホヴィット 世界でも増えています。南アフリカやブラジルで統合報告書の浸透率が高く、オランダでは大企業の約50%が出しています。欧州では2014年12月に従業員500人以上の企業に対して非財務情報の開示を義務化するEU指令が施行されました。当時このEU指令の策定を欧州議会で主導したのが私です。

 こうした動きもあり、今後欧州の1万2000社程度が統合報告書を作成していこうとしています。コーポレートガバナンスを向上させるために統合報告書を作る必要性が世界的に高まってきています。

――コーポレートガバナンスと統合報告書はどのような関係がありますか。

ホヴィット 両者は包括的でなければなりません。コーポレートガバナンスでは長期と短期の両方のリスクを管理しなければなりません。企業のガバナンス向上に統合報告書を活用してもらうことが我々の最終的な目的です。日本でも統合報告書がコーポレートガバナンス向上のエンジンとして活用され始めています。

 2018年、日本ではコーポレートガバナンス・コードが改訂されましたが、将来的にはコーポレートガバナンス・コードの中に「統合報告書での開示」が盛り込まれることになる可能性があると思います。