聞き手/酒井 綱一郎(日経BP社取締役副社長)

1917年に練乳の製造からスタートし、多彩な乳製品を製造・販売してきた。子供たちはもちろん、高齢者も含めた全世代の健康と栄養を追求し、取り組みを続ける。

――2017年に創業100周年を迎えましたが、次の100年をどのようなビジョンで築いていくお考えですか。

宮原 道夫(みやはら・みちお)
森永乳業 代表取締役社長
1951年東京都生まれ。75年森永乳業に入社。執行役員生産技術部エンジニアリング担当部長、生産本部長などを経て、2007年専務取締役就任、09年取締役副社長就任、11年代表取締役副社長就任、12年より現職

宮原 道夫 氏(以下、敬称略) 当社は創業から現在まで「健康で幸せな生活に貢献し豊かな社会をつくる」という経営理念を貫いており、それは今後も変わりません。

 ESGの視点でいうと、これまでは生産活動におけるハード面の取り組みが中心でした。水を大量に使う乳業メーカーとして排水処理や水の循環に力を入れており、自社開発した排水処理技術を全国の事業所に導入しています。ただ、現在は地球規模での持続的貢献が求められており、今後は社会環境の変化にいかに対応できるかが必須の条件になってきます。そこで「健康・栄養」「環境」「次世代育成」「人財育成」「人権」「供給」「コーポレート・ガバナンス」の7つを重要取組課題に設定し、ESGを経営の根幹に据え、取り組んでいこうと考えています。

――7つのどれもが重要ですが、御社としてはやはり「健康・栄養」、とりわけ子供たちに栄養を届けるという部分が最も本業に近いと思います。

宮原 当社は赤ちゃんの健康的な発育という観点で、早くから腸内細菌に着目し、1969年にビフィズス菌BB536を発見。71年に日本で初めてビフィズス菌入りヨーグルトを発売し、健康に寄与してきました。

 その後、研究を進める中で発見したビフィズス菌M-16Vが、低出生体重児に投与することでビフィズス菌優位な腸内細菌をより早く形成し、新生児にとって危険な壊死性腸炎や敗血症の発症を低減できることが分かってきました。

 現在は全国120以上の医療機関や、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールなど海外の医療機関にも提供し、多くの乳児の健康を支えています。

7つの重要取組課題の中でも特に「健康・栄養」は本業と直結するものだ。森永乳業はこれまでに数々の機能性素材を開発してきた。その中の一つ、ビフィズス菌BB536は整腸作用を中心に人に対して数多くの生理作用を持っており、数多くの商品に使用している。また、母乳に含まれるDHA、ラクトフェリンなどを配合した乳児用の調製粉乳や、ミルクアレルギーをもつ子供のためにアレルゲン性を低減した特殊ミルクなど、子供の成長をサポートする商品づくりにも力を入れている

――低出生体重児だとどのような問題を引き起こすのですか。

宮原 健康な乳児は腸内にビフィズス菌が多く、抵抗力が高いのですが、低出生体重児はビフィズス菌の定着に時間がかかり、腸管内のバランスが崩れて抵抗力が付きにくくなります。実は日本は低出生体重児率が高く、先進国では突出した数字になっています。これはダイエットなどによる若い女性の栄養不足が影響していると考えられます。ですから、乳幼児はもちろん、若い女性、高齢者まで、全世代の健康・栄養を考えた取り組みを進めていかなければなりません。

 また高齢者の分野では、近年、当社の研究でビフィズス菌の一種がアルツハイマー型認知症の発症を抑制する可能性があることも分かってきました。まだ研究段階ですが、今後の成果に期待しています。