聞き手/藤田 香

世界的な製薬会社ノボ ノルディスク(デンマーク)はESG経営の先進企業だ。ESGを社内に浸透させ、SDGsを本業に落とし込むコツを語った。

――ノボ ノルディスクは、「国連グローバル・コンパクト」のサステナビリティ先進企業が集まる「LEAD」の創設メンバーです。持続可能な経営を進めるための鍵は何ですか。

スザンヌ・ストーマー
ノボ ノルディスクのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)でコーポレート・サステナビリティのバイス・プレジデント。国際統合報告評議会(IIRC)のメンバー。デンマークのオーフス大学卒。2000年に入社し、統合報告書作りをリードした。同社の報告書は英コーポレートレジスター社の統合報告書ランキングで1位を取ってきた。コペンハーゲン・ビジネススクールのコーポレート・サステナビリティの非常勤教授も併任する(写真:中島正之)

スザンヌ・ストーマー氏(以下、敬称略) ノボ ノルディスクの事業の目的は、糖尿病をはじめとする慢性疾患の人々に治療薬を届け、彼らの生活を変えることです。環境、社会、経済が健全であって初めてビジネスもうまくいくと考えています。我々は環境、社会、経済への配慮を「トリプルボトムライン」と呼んで経営原則に掲げています。

 サステナビリティ経営には3つの不可欠な要素があります。1つは、市場のニーズを捉え、市場に共鳴してもらうこと。2つ目は、製品が競争優位性を持ち、患者や社員、取引先、株主に価値を届けること。彼らに責任を持つことはトリプルボトムラインに沿うものです。3つ目は、レジリエンス。経営にまつわる変化を受け入れ、チャンスを捉えてさらに強くなることです。当社も課題や変化、危機に直面した時に、そこから学んできた歴史がありました。

社員の行動を監査

――どんな危機から学んだのですか。

ストーマー 例えば1990年代半ばに、米国の保健当局FDAの査察を受け、当社が要件を満たしていないとして製造中止になるリスクに直面しました。書類の不備が一因だったのですが、より根本的な問題として、工場の従業員が問題を報告していたにもかかわらず、上司や経営陣が聞く耳を持たなかったという出来事がありました。

 ここで学んだことが、現在の「ノボ ノルディスク・ウェイ」という行動指針につながりました。すべての社員が従うべき行動指針で、トリプルボトムラインに従うことや、社員同士が互いに尊重し合うことなどが書かれています。上司に対しても正直に話せる文化が根付きました。ノボ ノルディスク・ウェイは、当社の経営を投資家に対して明確に定義したものでもあります。

■ 行動指針に当たる「ノボ ノルディスク・ウェイ」
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――この行動指針はESGにも深く関係しますね。社員に浸透させるためにどんな工夫をしていますか。

ストーマー 行動指針が会社のシステムにきちんと実装され、社員が指針に沿う行動をしているかを監査するチームを社内に作っています。私たちは「価値の監査チーム」と呼んでいます。16人のスタッフが世界の各部門を順番に回ります。2017年は2万1000人を監査の対象にし、うち3500人にインタビューしました。

 社員と面談して、行動指針を履行しているかを確認します。日本支社にも本社の監査チームが3週間滞在し、1人ひとりに15〜30分インタビューしました。

――どんなことを質問するのですか。

ストーマー 「トリプルボトムラインとは何か」「あなたの仕事ではどんな意味があるか」「目標を掲げているか」「トリプルボトムラインを実施している具体例を示してください」などです。トリプルボトムラインを知ってはいても、自分の仕事で具体的な価値の創出を説明できない社員もいます。監査チームのフィードバックを受け、社員もトリプルボトムラインを理解し、企業価値をいっそう考えるようになりました。

――ESGのテーマで最も力を入れて取り組んでいるのは何ですか。

ストーマー 我々の使命は「人々が治療薬を利用できるように担保すること」です。医療が整わない地域では、診療所の建設を支援したり、低コストでインシュリンを提供したりしています。それが社会的責任を果たすことになります。

 一方、国民皆保険制度を持つ日本では、より良い治療の提供が社会課題の解決につながります。健康状態が悪い人が増えれば、医療コストがかさみ、社会コストが増大するからです。健康で幸せな生活を送る人を増やすことは、社会課題である医療費の低減につながります。共有価値の創造にもなります。