聞き手/田中太郎(日経ESG編集長)

化学業界で初めて「SBT」認証を取得し、環境課題の解決に積極的に取り組む積水化学工業。SDGsに貢献する製品の提供で、長期的視野での企業価値向上を目指している。

――現在進行中の中期経営計画「SHIFT 2019 -Fusion-」の「S」は“Sustainable”です。ESGの視点で持続可能な経営基盤の構築が進んだと実感する点をお聞かせください。

平居 義幸(ひらい・よしゆき)
積水化学工業 取締役 常務執行役員 経営戦略部長
1985年神戸大卒。同年入社。96年中間膜事業部、2003年SEKISUI S-LEC B.V.取締役、09年高機能PC フォーム事業部長、14年執行役員、15年4月CSR推進部担当、経営戦略部長、同年6月取締役就任、17年4月より現職。

平居 義幸氏(以下、敬称略) 3点あります。1点目はお金の使い方の部分で、事業とESGのリンクが深まってきました。中期経営計画では環境貢献投資として120億円を盛り込んだのですが、その投資が順調に進んでいます。これとは別に、従業員の働き方改革のために100億円を投資しようという提案も人事から出て、経営陣の間ですんなりと了承されました。従業員が外出先から社内業務システムを活用したり、あるいは工場のシステム改善も含めて、生産性向上に向けた投資を積極的に行っています。すでにテレビ会議システムや営業へのタブレット端末導入が進み、仕事量削減と労働時間短縮が実現し始めています。

――まさに、コーポレート部門が旗を振ることで、事業部門と統合した施策が進んでいるということですね。あとの2点についても教えてください。

平居 会議の場や社内発行物などで、ESGの言葉・考え方がどんどんと入ってくるようになっています。従来のCSRレポートは社会貢献をメインに取り上げていましたが、2018年からサステナビリティレポートに形を変え、従業員に事業とESGの結びつきを分かりやすく解説する冊子にしています。こういった施策の効果もあり、経営、従業員の双方でESGに対する意識が変わってきたという実感があります。

 もう1点は経営層の変化です。例えば、執行役員が参加する社内の会議でも、環境投資に関する議論の際に変化が現れるようになりました。これまでは目先の利益を優先する考え方が主流でしたが、環境に投資することで長期的視野に立ち企業価値向上を実現しよう、そのために発生するコストを受け入れていこうという姿勢が目立つようになりました。

 今は多くの企業が環境に力を入れています。これまで当社は環境の部分で優位性を保っていましたが、そこで他社に追いつかれると優位性が相対的に低下し、資金調達でネガティブな影響が生じます。その危機意識と、長期的な企業価値向上に向けて経営を行うことの重要性が共有されるようになったのだと思います。

「E」から「S」に広げた価値

――「環境を経営のど真ん中に」「環境で際立つ会社」という経営目標は現在でも不変ですか。「環境」は収益力の向上に結びついていますか。

平居 その経営目標は変わりませんし、変えるつもりもありません。環境に資する製品を社内認定する「環境貢献製品」の売り上げに対する比率も増えています。今後は自然環境だけでなく社会環境を含めた、すなわちSDGsの目標達成に資する製品を提供することで、収益力もさらに上がっていくと考えています。

――SDGs貢献製品はどのような基準で認定されているのでしょうか。環境貢献製品の場合とは変えていますか。

平居 SDGs貢献製品というブランドを新たに打ち出すわけではなく、名称は従来浸透している環境貢献製品としたまま、カテゴリーを「E」から「S」にも広げたというイメージです。環境貢献製品は、社内で定めた判定基準をもとに認定登録し、社外アドバイザリーボードからのご意見もいただいた上で評価を行っています。2017年度から、従来の自然環境だけでなく「S」、つまり社会環境も加えた認定基準に拡張しました。

 例えば、住宅についてはもともと光熱費ゼロというところからスタートしていますが、そこに「S」の部分として安全も追求し、災害時でも平常時と変わらず住み続けられる住宅という点を強くアピールしています。これに価値を感じ、価格が多少高くても購入してくださるお客様が増えています。また自動車部品では、フロントガラスに速度などの情報を映し出すことで運転手の目線移動を最小限にとどめるHUD(ヘッド・アップ・ディスプレイ)に対応した高機能中間膜が好評です。自動車メーカーも自然環境プラス社会環境に貢献する、すなわちSDGsに貢献する製品を求めているので、当社もニーズに合致する価値を提供していきたいと考えています。