藤田 香

GPIFは運用資産140兆円の半分を占める債券投資でもESGを考慮する。手法やESG評価方法について世銀と共同で研究し、今後の投資に生かす。

 約140兆円を運用する世界最大の機関投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、株式だけでなく債券への投資でもESGを考慮するための研究を世界銀行と実施し、2018年4月末に報告書を発表した。結果を基に今後の投資行動を探る。

 GPIFは2017年10月に投資原則を改正し、これまで株式投資を対象にしていたESGへの考慮を、債券も含むすべての投資に広げると明記した。今回の研究は、これを実現するための手法や効果を調べたものだ。

 GPIFの基本ポートフォリオは、国内と外国の株式がそれぞれ25%、国内債券が35%、外国債券が15%で、債券投資に約70兆円を充てている。債券の8割は国債で、残りが社債や地方債などだ。従来は債券指数などを活用し、ESGの要素を明確には組み込んでいなかった。

■ GPIFの国内債券投資の内訳
■ GPIFの基本ポートフォリオ

 共同研究で調べたのは3点。1点目はESGを考慮することで、債券投資のリスク軽減やリターン(収益)向上の効果があるか。利率が決まった債券では収益向上にはつながりにくいため、リターンへの悪影響がないかを調べた。学術研究を調べた結果、「リターンを毀損(きそん)することはなく、より安定したリターンに貢献することが分かった。ESGを債券の信用リスク分析の1つに使えると評価した」と、GPIFの大石哲也・投資戦略部長は説明する。

 2点目は先行する世界の機関投資家が行っている手法の調査だ。グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナブルボンドを購入したり、株と債券を含む投資プロセス全体にESGを統合的に組み込むなど様々な事例がある。これらを基に投資行動の選択肢を検討していく。

債券の信用格付けに影響も

 3点目は課題の洗い出しだ。債券ではエンゲージメント(対話)が難しく、議決権も行使できない。これに対しては、「満期時に買い替えに応じるかどうかで発行体に影響を及ぼせる」と大石部長は指摘する。

 もう1つの課題は債券のESGをどう定量評価するかだ。Eには温室効果ガス排出量、Gには社外取締役の数など定量データが存在するが、人材などSのデータは少なく定量評価も難しい。GPIFは世銀が蓄積したデータを活用し、債券のESGのリスクとチャンスを測る定量指標を作れないか検討している。注目しているデータの1つが、世銀の人的資本の価値や指標のデータ。Sの指標に使えるか検討する。

 ESGの評価は国債の信用格付けに影響する可能性もある。報告書の発表を契機に、債券投資へのESGの考慮が活発化しそうだ。