歯のホワイトニングや、シミをとる化粧品にも使え、しかも人体になじみが良い――。そんな素材を生み出したスタートアップ企業がある。カルシウム(Ca)とリン酸(H3PO4)からなるアパタイト(Apatite、燐灰石)を人工的に作り出す、バイオアパタイト社だ。しかもその材料は卵の殻。食品加工などに伴って発生する卵殻のゴミを、アパタイトとして再生させられる。しかも、製造プロセスの工夫で多様な効用を引き出せ、用途の広がりは抜群だ。

人の骨の75%はアパタイトだといわれる。もちろん、歯の主成分もアパタイトだ。そのアパタイトを卵の殻から作り出すという技術を誇るのが、バイオアパタイトである。骨などの代わり、あるいは骨密度を高めるための食品として活用できるほか、その吸着性の高さなどから化粧品や殺菌/抗菌作用が必要な製品など、幅広い分野に応用できる。産業廃棄物として扱うしかなかった卵の殻を、さまざまなビジネスを生み出す金のタマゴに変えたわけだ。

マイナス資源であるゴミから役立つものを生み出したい

バイオアパタイトの中村弘一社長は、琵琶湖の浄化運動に携わるなど、もともと環境に高い関心を持っていた。その影響もあって環境分析会社を立ち上げた。業務の中心は測定・分析だったが、その延長として食品残さのリサイクルなどにも取り組んだ。そのとき考えたのが、大量に廃棄されているゴミというマイナス資源を有効利用すれば、いろいろな領域でゼロエミッションを実現できるのではないか、ということだった。その考えを発展させて、廃棄物でしかできない技術を積極的に開発しようと考え、貝殻からのアパタイトの抽出に取り組んだ。

こうした背景で取り組むようになったマイナス資源の活用。その中でもとりわけ注目していたのが卵殻だった。

バイオアパタイトの中村弘一社長

アパタイトは燐灰石という鉱物であり、人口の骨や歯の代替物を、鉱物から作ることも可能だ。ただ、人体を構成する要素として使う以上、人体により近い生物から取り出す方が望ましい。生物の中でカルシウムを含むアパタイトとなり得る材料には、卵殻のほかにも貝殻(特にホタテ貝)、サンゴなどがある。この中で、サンゴは自然保護の観点から使えない。またホタテの貝殻には硫酸塩SO42-(キラキラ見える成分)が含まれるため、インプラントのような用途では、医薬部外品の規制に触れてしまう。

この点、卵殻はほかのカルシウム素材に比べると、組成が人間の骨に最も近い。しかも卵殻は、ほかにはほとんど再利用されていない廃棄物。しかも食品工場など捨てる側からすると、数日で腐ってしまうため産業廃棄物として扱わなければならない厄介者である。それを材料として使うのだから、材料の調達コストは安く済むだろうと想像がついた。

日本国内での卵の消費量は年に約250万トン。卵殻の重量は卵全体の10〜20%程度だから、約35万〜50万トンもの卵殻が捨てられていることになる。このうち食品工場から排出される卵殻の量は、約半分で、それが産業廃棄物として処理されている。食品メーカーが産廃業者に支払う金額は年間20億円にも上るという。さらに、日本以外のアジアの国々に目を向けると、卵の生産量は年間4100万トン。卵殻の量にすると少なくとも500万〜600万トンにはなる。

こうして約10年をかけて卵殻の問題点の解決に取り組み、物質の基本構造が (Ca: Mg)10 (PO4)6 (OH)2というカルシウムにマグネシウムの混合物にリン酸を加えた「バイオアパタイト」の製造に成功。2017年9月にバイオアパタイトを創業した。なお、このX10 Y6 Z2というバイオアパタイトとして機能する物質の基本構造について、同社は現在、物質特許を出願中である。

卵殻が結んだ縁が会社設立のきっかけに

バイオアパタイトの設立の背景には、中村氏とスーパーバイザーの川本忠氏、そして取締役の酒井有紀氏との出会いがあった。

当時、川本氏は、農業の高度化を目指していた。いわば食品工場から残さを出さず有効利用する方法を探っていた。その際、ゴミとしての卵殻を扱うことがあったため、卵殻を集める方法や、それを粉末化する方法を知っていた。

互いが求めるものを持っていた中村社長と川本氏は、出会ってすぐに意気投合し、バイオアパタイト設立に着手した。設立するからには、次世代まで続くビジネスをやることを狙った。基本コンセプトや卵殻の調達方法はできたが、肝心の商品はまだできていない。実際に期待する効能を発揮するバイオアパタイトを安定的に作れるようにするには、商品開発が必要だった。そこで開発人材として引き入れたのが、もともと医療分野の研究に従事していた酒井氏だった。

バイオアパタイトの川本忠スーパーバイザー
バイオアパタイトの酒井有紀取締役

バイオアパタイト立ち上げに当たって、科学的な視点からの知見を求めて、北海道大学の久保木芳徳教授をアカデミックアドバイザとして招聘した。久保木教授は、「芸能人は歯が命」というテレビCMで有名な歯磨き「アパガード」(商品名)を生み出した研究者。ホタテの貝殻からアパタイトを作っており、アパタイトを利用した医療・環境産業の創出を目指していた。中村氏らは、その久保木教授から、究極の歯磨きを作ってほしいという依頼を受けて、まずそのためのバイオアパタイトを製造することにした。

ただ、実際に卵殻からアパタイトを抽出する場合にずいぶん苦労した。まず、卵殻を取り出す場合に卵殻膜を分離する必要がある。有機物を多く含む卵殻膜は、焼成時に腐食性ガスを発生する。このガスは炉を傷めてしまう。

加えて、卵殻膜は24種類という多くのアミノ酸を含み、卵殻とは別の形で利用できる。例えば、そのアミノ酸の内のシスチンという物質は、アンチエイジングや美白剤に使われている。従来は、効率的に抽出する方法がなかったために、かなり高価な高級化粧品やサプリメントにするしかなかった。最終的に、卵殻膜が付いたままの卵殻を液体の中を浮遊させて分離する方法を開発し、効率的に取り出せるようになった。

卵殻膜を分離した後に、アパタイトを合成するところも苦難の連続だった。「何度やってもリン酸カルシウムになってしまった」(酒井氏)。それでも、焼成温度など、合成時の条件を変えながら何度も作業を繰り返し、ついに再現性の高い合成手法を発見。商品化に至った。

処理フローからの派生品は多い

卵殻由来のバイオアパタイトを作り出す処理フローは図のようになっている。食品工場から割れた卵の廃棄物をまず1次処理。ここで卵殻膜を分離する。さらに2次処理して卵殻を取り出す。さらにそれを焼成処理し焼成卵殻からバイオ酸化カルシウム(CaO)を生成する。

卵殻利用のバイオアパタイトの製造フロー(出所:バイオアパタイト)

これにリン酸を加えて反応させると、アモルファスのバイオアパタイトができるというわけだ。これを粉末にしたり、成形焼成でフィルタに加工したりする。

処理の途中でできる卵殻膜は、24種類のアミノ酸を持ち、その中にはシスチンというアンチエイジングに有効な物質が含まれている。これにより、美白剤など、従来は高価なものしかなかった化粧品やサプリを、比較的安価に提供できるようになる。卵殻膜から得られる成分は、今後さらに広い使い道がありそうだとしている。実際、卵殻膜は世界的に研究が進んでおり、例えばベトナムの閉経後の女性の骨を丈夫にするという研究結果や、卵をたくさん食べる子供の骨が丈夫になるという米国での研究成果がある。