<この記事を要約すると>

  • 空港の作業員は高齢化と高い離職率による人材不足に直面している
  • 新明和工業が開発した搭乗橋の自動装着システムにパナソニックのAI技術を搭載
  • パナソニックは長年培ってきた画像認識と映像ソリューションを発展させた

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インバウンドの需要が年々増加する一方、空の玄関である空港は人材不足に悩んでいる。解決策の1つがAIやIoTを活用した“空港のスマート化”だ。新明和工業は、空港ビルと航空機を繋ぐ搭乗橋(Passenger Boarding Bridge)の自動装着システムを完成させ、世界初の実用化を徳島阿波おどり空港で果たした。搭乗橋装着の自動化の実現に大きな役割を果たしたのが、パナソニックのAIだ。この先、成田国際空港やシンガポールの空港にも導入されるこの画期的な仕組みがどのようにして生まれたのか。その思いを関係者に聞いた。

航空旅客搭乗橋の自動装着システム

AI搭載PBBは、未来のスマート空港へと踏み出した“はじめの一歩”

空港業務を支える裏方たちは、チェックインカウンターやゲート業務などのグランドスタッフ、屋外の航空機の周辺で働くグランドハンドリングに大別される。そんな空港スタッフの仕事は、定時運航と乗客の安全・安心を確保するため、常に淀みのないオペレーションが求められる。普段、我々が何とはなしに空港で受けているサービスの数々は、現場のプロフェッショナルたちによる真摯な姿勢によってもたらされたものだ。

ここで紹介するAI搭載PBBは、未来のスマート空港へと踏み出した“はじめの一歩”である。重さ約30トンもあるPBBがボタン1つで、機体入口のわずか10センチまで自動で近づくのだ。熟練したスタッフが微調整をしながら近づけていた操作を自動化したことで、作業の標準化に成功。経験の浅いスタッフが担当しても同じ時間で同じ位置に接近させることが可能となった。これこそまさに、省人化と効率化を両立したソリューションと言えるだろう。

自動装着システムを搭載した航空旅客搭乗橋(徳島阿波おどり空港)

この度の自動装着システムの開発の中心となったのは大手PBB製造メーカーの新明和工業と、パナソニック ソリューションテクノロジー(以下パナソニック)。新明和工業製のPBBは、従来から航空機の1メートル手前まで自動走行させる他社の追従を許さない特許技術(プリセット走行)を保有し、その自動運転制御にはパナソニックのPLC(制御装置)が採用されており、新たな取り組みにあたって協力関係を結ぶ素地はできあがっていた。

PBBが乗客の思い出の架け橋になる

新明和工業の北野明彦氏は、「ある航空会社から空港の効率化・自動化をテーマに取り組んでほしいとの相談を受けたのが発端です。我々はPBBを各地の空港に納入していますから、それを進化させればさらなる効率化に貢献できるのではないかと考えました」と当時を振り返る。

新明和工業株式会社
パーキングシステム事業部 副技師長
北野 明彦氏

新明和独自の技術である、航空機のドアの1メートル手前まで自動でPBBを近づけるプリセット走行は、それ以前から作業時間短縮に役立っていた。完全無人化に向け、これを完全自動装着させるにはどうすればいいか。そんな中、当時の新明和工業の社長が「画像認識を搭載してPBBを進化させてみたらどうか」と提案。2016年からAIを用いた画像認識による実証を開始した。現場で指揮にあたった同社の園田義弘氏は次のように語る。

「我々は空港にカメラを設置して、朝から晩までひたすら航空機のドア付近の画像データを撮影しました。そこで撮影したデータをパナソニックに渡して、ディープラーニングによる解析を行いました。そして解析データを戻してもらい、夜間に駐機している航空機とPBBを使って自動装着の実験を繰り返したのです」(園田氏)

画像認識の精度を上げるためには、とにかく現場で撮影をした膨大な実画像データが必要となる。そのため、悪天候や厳しい西日といった独特の状況もすべて含んだ画像データを取り揃えておかねばならない。今回採用されたAI技術は人が教師となって育てる必要があり、自ら学ぶことはできない。人の手により学習させることで、決まった位置にピタリと駐機することがなく、かつ、複数の機種およびさまざまなペイントにより見た目がかわってしまう航空機のドアの位置を正確に認識することができるようになったのである。

新明和工業株式会社
パーキングシステム事業部
システム本部 空港施設部
設計・技術グループ チームリーダー
園田 義弘氏

結果、徳島阿波おどり空港では2018年からAI搭載PBBの本稼働に至った。PBBを自動で10センチまで近づける実運用は他に例がないという。「若手だけではなく、ベテランスタッフも喜んでくれています。神経を使う最後の微調整が不要になったわけですから」と園田氏。この成果が認められ、2019年には成田国際空港とシンガポール・チャンギ空港への本システム導入が決定。既に両空港で画像データの収集に着手している。

園田氏はパナソニックに関して「細部の調整には人間の知見を加えた“さじ加減”が必要なのですが、今回担当してくれた技術者にそれに応えてくれる柔軟さがあり、とても前向きだったことも奏功しました。ちょうどAI実用化の事例が出てきた時期と重なり、タイミングも良かったのだと思います」と評価する。

北野氏は「この技術を用いて、最終的には完全自動装着まで持っていきたい。安全性確保の問題もあり、当局と話し合いながらですが、2020年頃を目標としています。またPBBを遠隔監視して故障予測を行う計画もあります」と今後のビジョンを話す。園田氏は「今回は空港IoT化のスタート。成田国際空港への導入はその布石となります。空港内の設備が自動化され、相互にリンクして協調することが空港業界の将来図です」と未来像を語り、このような言葉で締めくくった。

「航空機を利用されるお客様が第一歩を踏み出し、そして最後に渡るのもPBB。ここにAIが搭載されてさらにスムーズに第一歩が踏み出せるようになりました。そういう意味で、我々のPBBは夢のある製品、思い出の架け橋であり、その仕事に携われていることが誇りです」(園田氏)