このコラムでは、「食」 にまつわるテクノロジーの進化をひも解きながら、様々な課題を乗り越えた先の未来の姿を見通してみたい。第1回は農業についての話題を取り上げる。農業の現場では日々、技術革新が進んでいる。そうした話題の一つが「植物工場」。植物工場で培われている技術は屋内だけでなく、屋外の農場でも効果を発揮している。

人類の歴史は、食料をいかに安定的に確保するか、それを考え改善してきた歴史だと言える。有史以前、道具を使い始めた頃の人類は飢餓と隣り合わせに暮らしていた。

数万年前に農耕が発明されたことは大きな進歩ではあった。これによって人類は、食糧調達を計画的に行うことを覚えた。ただし、それで世界のすべての地域で食料生産が安定したわけではない。というのは、農業は自然環境の条件の影響を強く受けるからだ。まず、その土地の土壌の質の善し悪しに左右される。水があって土壌が潤っている必要もある。かと言って、雨続きで日照が不足すれば作物は育たないし、カビなどによって病気も起こすし、水浸しの土地では根が窒息して死んでしまう。あるいは、育ち実った作物も、雨や風で台無しにされることもある。

「育種」と「栽培技術」の両輪で進歩

したがって、農耕発明の後も、人類はそうした農耕を営む上での障害を克服するための技術革新に取り組んできた。それは、古来、育種と栽培技術の両輪で進歩してきた。つまり、より収穫量が多く、病気に強いといった優れた種苗を得ることと、それを栽培する圃場(田や畑)の使い方を改善することと、その両方に力を注いできたのだ。その両方が現在も続いており、未来へと続く仕事である。そして近年、それらは飛躍的な進歩を遂げている。

(写真:hiroshiteshigawara - Fotolia)

育種の進歩は、作物の性能や特徴を遺伝子レベルで捉え、その情報を活かして効率的に交配・選抜を行ったり、遺伝子を編集して新しい性能や特徴を作物に持たせたりという時代に進んでいる。

一方、栽培技術はさまざまな技術が複合する形で進歩しているが、全体を象徴するのが、「植物工場」だと言える。これは、従来の通常の作物が触れる自然条件のすべてを人工のものに置き換えようとするものだ。最も先端的な完全閉鎖型と呼ばれるものでは、屋内で栽培を行って風雨を避け、人工光を最適なスケジュールで浴びせる。畑の代わりにプールにミネラルや呼吸に必要な空気を含む養液を満たして、根を這わせ、常に最適な濃度の養分を与える。季節をなくし、植物の栄養を最適化することで、1年間のうちに露地栽培(一般の畑での栽培)には不可能な回数の収穫を得ることができる。

この養液に含まれる養分のバランスは、センサーでリアルタイムにチェックされ、コンピュータ管理で調整されている。また、播種(種まき)や収穫は高度に機械化して作業を効率化し、農業の経験と知識のない人材の戦力化と省人化も可能だ。

最近の事例では、たとえばパナソニックはこのほど西部ガスのグループのエスジーグリーンハウス(福岡県北九州市)に、人工光型植物工場システムを納入し、5月からリーフレタスの生産を開始した。カリウム摂取に制限を要する人向けの低カリウムレタスを日産3,500株供給する。

低カリウムレタスの栽培には富士通も取り組んでいる。グループの富士通ホーム&オフィスサービス(川崎市)は、福島県会津若松市で半導体用クリーンルームを転用した植物工場で低カリウムレタスを生産するが、特に、清潔な生産環境で生産し洗わずに食べるという点も訴求している。

また、NPO法人植物工場研究会(理事長:古在豊樹・千葉大学名誉教授)には、種苗などの農業関連企業に限らず、食品、機械、建設などの大手企業をはじめ100を超える団体が参加。この中で狙いと利害が一致する企業同士が複数のコンソーシアムを立ち上げ、各種の研究や実証実験を進めており、今後も新しい実用技術が生まれてくると期待されている。

こうした植物工場は、設備と運営にコストがかかるため、地上のすべての圃場に取って代わるものではないが、天候等の自然条件を受けて収量に波を生じる通常の圃場での生産を補完したり、砂漠地帯に作物を供給したり、将来的には宇宙空間や惑星で働く人に食物を供給することにもなるだろう。

しかし、植物工場的な発想は、そうした特別なケースだけで利用されているのではない。たとえば、現在、多くの国の圃場に普及している技術の一つが、点滴潅漑というものだ。これは、土壌が吸い込み、植物が吸い上げるペースに合わせて水をしたたらせて潅漑を行うというものだが、これを単なる水ではなく養分を適切なバランスで含んだ養液に置き換えることで、植物工場の養液栽培と同様の効果を得ることができる。さらに、圃場にセンサーを埋め込んで、圃場内の各地点の栄養状態をリアルタイムでモニターし、養液の組成を変えるということが、IoT的に実現されていく。