食の安全、食糧不安などの観点から注目を集める植物工場。実は、それを支えているのは、LED、ルームエアコンなど家庭向けとして改善され、普及した技術である。これらを活用することで、低コストで安全な野菜を提供できるようになる。

柏の葉キャンパスを訪ねるのは11年ぶりだった。近くの農業生産者を取材した折、「もうすぐここに駅ができる」と案内してもらって以来。柏の葉キャンパス駅の前には大型のショッピングセンターが開業し、更地ばかりだったあの頃の記憶と比べれば手品を見せられたような、あるいはタイムスリップしたような感覚だ。

このショッピングセンターを通り過ぎた先に、千葉大学柏の葉キャンパスが広がる。その中にNPO植物工場研究会の千葉大学拠点がある。植物工場に関する最先端技術の実験が進む場所だ。この拠点は2009年度農林水産省モデルハウス型植物工場実証・展示・研修事業で設置された。

(写真1)NPO植物工場研究会の千葉大学拠点

植物工場の人工光の主力はLED

そもそも植物工場とは、日本では農林水産省と経済産業省によって、「高度に制御される環境で周年的に栽培・収穫ができる施設」と定義されている。一般に施設園芸とされるガラスハウスやビニールハウス内での栽培も含む。柏の葉の拠点にはそのタイプの施設も含めると9つのコンソーシアムが実証実験を展開しており、参加企業・団体は100を超える。種苗、ハウスや水耕用資材などの施設をはじめ農業関連企業として著名な企業のほか、大日本印刷、パナソニック、岩谷産業、デュポンなど、多分野で事業を展開する大企業も名を連ねる。

敷地に入ると、いくつもの大型施設が目に飛び込んできた。千葉大学拠点は大型のガラスハウス5棟と人工光型植物工場3棟をはじめとする研究施設で構成されている。人工光型植物工場の主力はLED。LED照明の性能向上で、植物工場のコストダウンのレベルが新段階に入りつつある。家庭への普及でLEDは価格的にもランニングコスト的にも使いやすいものになったのだ。LEDがさらに家庭へ普及していけば、植物工場の効率は格段に向上するとみられている。

(写真2)人工光で発芽させ苗を作る施設。ここからさらに生長させる施設に移植する

かつて、ビニールハウスやガラスハウスの設計を専門に行っている技術者集団に取材したとき、「植物工場はとにかく室内にこもる熱との闘い。エアコンはフル稼働になり、この電気代が莫大になるのが最大の問題だ」と厳しい意見を聞いた。

熱がこもるのは、そもそも施設が閉鎖的であるということだけでなく、光源の発光効率の問題が最大の原因だ。たとえば、白熱電球は与えた電気エネルギーのうち、光になるのは3%に満たないという。蛍光管はまだ効率がいいものの、それでも十数%まで。使った電気エネルギーの大半が熱エネルギーとなって室内にこもってしまう。それをまた電気エネルギーを使って排熱するというのだから、ハウス設計の技術者たちが「実用化は無理」と断言したのもうなずける。

しかし、LED照明の実用化で状況はがらりと変わりつつある。照明機器があるエネルギーに対してどれだけ明るくすることができるかを発光効率といい、lm/W(ルーメン・ワット)で表す。白熱電球が15~25lm/W程度、蛍光管が80~100 lm/W程度であるのに対して、経産省が2012年にまとめた資料によれば、近年LEDの発光効率は飛躍的に向上し、白熱電球の6倍、蛍光管の1.3倍の効率を持つものが登場している。さらに、理論的には200~300lm/Wも可能で、電器各社が開発にしのぎを削っている最中なのだ。

かつてのLED照明は寿命が長いものの、製品価格が高く、発光効率も蛍光管程度だった。それが、家庭へ普及するにつれて価格が下がり、発光効率も蛍光管を抜き、さらに向上している。経産省によるとLEDの普及率はまだ10%を切っているが、これはすなわち「効率化を伸び代がまだある」ということだ。

今後、国は蛍光管に製造規制をかけ、LED等の高効率照明の普及率を2030年までに約100%に引き上げることを目指している。そのときのLED照明の価格や発光効率は、現在のレベルの比ではないはずで、そこに植物工場新時代の可能性が広がっている。