日通商事で、ハイブリッドアイスの事業化を担当する同社 物流商品・機器部次長の長野貴志氏は、「魚を暴れさせることなく瞬時に凍らせることができるため、高度な活け締めの技術も必要ありません。従来の冷凍方法に比べると、解凍後の身の品質は圧倒的に高い」と語る。

実際に鮮魚とこの−21.3℃の急速冷凍をしたものとで味を比べてみたところ、「試食した生産者が見分けられません」と長野さん。急速に冷凍する方式としては、低温に冷やしたアルコールや液体窒素に漬ける方法もあるが、専用の袋に入れたり特殊な液体窒素を取り扱うことは非常に難しい。「Hybrid Ice −21.3℃フローズン」はいわば濃い塩水のシャーベットなので、魚を直接漬け込むことができる上に、もともと塩水中を泳ぐ魚の身を傷めることもほとんどないという。

日通商事では2016年の9月にこの第一号機を愛媛県南宇和郡愛南町にある愛南漁業協同組合(愛南漁協)に導入し、全国の漁協を中心にこの装置を中核に据えた生鮮物流システムの販売提案を進めている。

現状では、ハイブリッドアイスの販売価格は約4500万円と高い。漁協としても国や県の助成金などを使って導入せざるを得ない金額だ。実際の運用では「−1℃の機能だけでいいという事業者もいらっしゃるので、そういった方に向けて機能を限定して2000万円台にコストダウンした装置を準備しています。これなら従来型のスラリーを作る製氷装置と価格面で対抗できます。こちらの機能限定版の方は2018年初めには注文に応じられる」と長野さん。さらに小規模の「厨房に置けるほどの」装置についても開発が進んでいるという。

日通商事で「ハイブリッドアイス」を中核にした物流システムの事業化・販売を進める同社 物流商品・機器部 次長の長野貴志さん(写真:高山和良)
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「1℃のところからこの技術が徐々に広がっていき、その結果として、−21.3℃のフローズンの技術が広く認知されるようになれば、冷凍の世界が従来の保存冷凍から鮮度保持冷凍という考え方に変わってきます。そうなれば鮮魚物流の世界にイノベーションが起こります」と長野さんは鮮度物流の今後について構想を語る。

物流が変える未来の食

ここまで見てきたような、生鮮物流の新しい取り組みが広がることによって、日本と世界の食が大きく変わっていくことは間違いないだろう。

地方を旅すると、地場でしか食べられない魚にお目にかかることがある。味は抜群なのに鮮度が落ちるのが速かったり、単に知名度が低く全国的には流通していなかったりする。言ってみれば、“幻の地魚”とでもいうべきものだ。今回紹介したような鮮度物流が今後さらに本格的に普及してくれば、幻の地魚が日本中どこでも食べられるようになるかもしれない。また、ハイブリッドアイスのような鮮度物流のイノベーションが進めば、海外でも「イエローテール」と呼ばれファンの多い日本の養殖ブリが、和食や寿司人気の高まりと共に、サーモンに並ぶようなグローバルな人気食材に育つような可能性もある。

さらに、鮮度物流の問題は、宗教上の問題と絡んでもっと大きな影響を及ぼすかもしれない。例えば、世界に約16億人いると言われるイスラム教徒が口にする食材をどのように輸出入するのか、イスラム法で食べることが許される食材や料理のことを指す「ハラール」の問題は、食の物流を考える上では今後の大きな課題となっている。日本通運でこの「ハラール物流サービス」に取り組む同社事業開発部課長の佐原潤さんも、「日本国内にもイスラム教徒の方が訪れる機会が増えて、鮮度物流とハラール物流の問題を足し合わせて考えていかないといけません。2020年のオリンピックまでの問題ではなく、むしろその後が大事です」と語る。

日本通運で「ハラール物流サービス」を担当する同社 事業開発部課長の佐原潤さん(写真:高山和良)
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歴史を振り返ってみれば、香辛料や塩、様々な食材が大陸から別の大陸へと伝わり、世界を大きく変えてきた。少し大げさに言うなら、世界の歴史は食材の物流の歴史でもある。食の物流が今後どのように変化していくのか、しばらくは目が離せない状況が続きそうだ。