「日本人は、いつまで鰻を食べられるのか」ーー毎年、土用の丑が近づくたびにこう思う人は多いのではないか。今年1月に報道された、ウナギの稚魚であるシラスウナギの歴史的不漁は衝撃的だった。ただでさえ減り続けている漁獲量が前年の十分の一近くにまで落ち込んだのだ。「絶滅」の文字が頭にちらついた関係者もかなりいたはずだ。その後、持ち直したことで話題に上らなくなったが、それでも今年の国内の漁獲量は8.9トンと2013年の5.9トンに次ぐ史上2番目に少ない大不漁なのだ。一方で、外食チェーンやスーパーなどではうな丼や蒲焼きが気軽なメニューとして扱われている。親を獲り、稚魚も捕る。その傍らで大量消費が続く。こうした圧力が加えられた魚種はいつ絶滅してもおかしくない。ここでは、ウナギ生態研究の第一人者であり、ウナギ博士として知られる日本大学生物資源科学部の塚本勝巳教授に、ニホンウナギが置かれている現状と、これを絶滅させないための方策を聞いた。

――今年のシラスウナギ(ニホンウナギの稚魚)の記録的な不漁は何が原因なのでしょうか。特に前半はひどく、後半持ち直しましたが、それでも国内採捕量は史上2番目に低い水準です。


塚本 シーズンを通しての極端な不漁は、産卵する親魚の数が少なかったか、海流による輸送の不具合によってシラスウナギが東アジアに到着しなかったものと考えられます。今年の漁期前半は記録的不漁で後半にそこそこ獲れたことは、単純に産卵期が後ろにズレたか、例年より仔魚(卵から孵化したばかりの幼生)の輸送に時間がかかり加入が遅れたためかもしれません。いずれにせよ様々な原因が考えられます。

私はニホンウナギの資源量の変動は、長期的な増減の傾向と海洋環境の変動による短期的な年変動の二つに分けて考えるべきだと考えています。長期的な減少傾向が端的に表れているのは淡水域での漁獲データです。対象は川にいる成長期の「黄ウナギ」と成熟が始まった「銀ウナギ」になりますが、両方を足した河川におけるウナギ漁獲量はこの半世紀ほど右肩下がりの直線状に減り続けています。

こうした河川におけるウナギ漁獲量の資料に加え、様々な情報や状況証拠を見ても、何十年という長期にわたって資源は減少し続けていることは明らかです。

研究者の中にはニホンウナギは減っていないという意見を持っている方もいますし、論文も出ています。しかし、現在の状況を資源が減っていないと楽観することはできないと思います。

保全生物学の立場では、予防原則というものがあります。減っているかどうかわからなければ、危険サイドに立ち、減っているという仮定の下に対策を立てることですが、ニホンウナギについては最悪のケースも想定して予防対策をすぐにも取るべきです。

国内でのウナギ成魚の漁業生産量(青い折れ線)と、稚魚のシラスウナギの国内採捕量(赤い折れ線)は年々減り続けている。データは農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」、農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」(1957年(昭和32年)〜2002年(平成14年))、2003年(平成15年)以降は水産庁の調べから作成。シラスウナギの国内採捕量は、池入数量から輸入量を差し引いたもの。1970年代初めまでのシラスウナギの統計にはシラスウナギが少し成長して黒色になったクロコが入っている可能性がある
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――1960年代に200トンを超えるほどのシラスウナギの漁獲量があったのに、今では年間で十数トンというレベルにまで減ってしまった原因は何でしょうか?


塚本 原因を考える時、元になる正確な統計がないとなかなか難しいのですが、ウナギの場合は他の魚種に比べて特に信頼できる統計が乏しい状況です。しかし、今利用できる統計を見てみると、1970年頃からシラスウナギの資源はガクンと落ちたものと思われます。養鰻業も初期の頃はクロコという、シラスウナギが成長して魚体が黒くなったものを種苗に使っていて、クロコは体重がシラスウナギより重いので、尾数に直すとそれほど漁獲量は多くはなかったはずだという議論もあります。確かにそうした可能性はあります。しかし、クロコが入っていた時代だけ取り出してみても漁獲は減少していますし、さらに、もっぱらシラスウナギのみを使うようになった1975年頃から後もやはり資源は減り続けています。

その後、つい最近の親ウナギ保護の漁獲規制まで、ニホンウナギの資源にとって回復を促すような良いことは何も起こっていません。私は、ウナギ資源の減少の原因は、獲りすぎ、河川環境の悪化、海洋環境の変化の三つに大きく括ることができると思っています。

――何が一番利いているとお考えでしょうか? また、どうすれば歯止めがかけられますか?

ウナギ研究の第一人者、塚本勝巳教授。1971年東京大学農学部水産学科を卒業、東京大学海洋研究所教授、大気海洋研究所教授を経て、現在は日本大学生物資源科学部教授。40年以上にわたってウナギ産卵場調査に携わり、2009年には世界で初めて天然のニホンウナギの卵をマリアナ諸島西方海域で採集することに成功。ウナギ研究の世界で前人未踏の成果を挙げてきた世界の「ウナギ博士」であり、今も第一線に立って研究をリードする。日本水産学会賞、日本農学賞、日本学士院エジンバラ公賞などを受賞。著書に『大洋に一粒の卵を求めて: 東大研究船、ウナギ一億年の謎に挑む』(新潮社)、『うなぎ 一億年の謎を追う 科学ノンフィクション』(学研教育出版)など多数(写真:Eric Chauvet)


塚本 証明は難しいんですけれど、確実に言えるのは獲りすぎ、それはとりもなおさず、消費しすぎているということです。海からやってきたばかりのシラスウナギも川の黄ウナギも銀ウナギも、身近に獲れるすべての発育段階のウナギを漁獲・利用しています。これは直接的に資源減少に利いているものと思われます。

私もウナギ好きですから全く食べられなくなるのは困りますが、やはり少し我慢して消費を抑制しないといけないんじゃないかと思います。多くの日本人がウナギ好きと思われますが、その人たちがそれぞれに年間で食べている量を半分に減らし、この10年は我慢する。その代わり、特別な日には、高いお金を払ってでもとびきりおいしい鰻を食べるというスタイルにするしかないんじゃないでしょうか。われわれ消費者の一人ひとりがウナギの食べ方に対する意識改革をするのです。

ウナギは2000年代に入ってから大量消費の時代になりました。近年、だいぶ量は減りましたが、その風潮は今でも続いています。われわれが消費するからシラスウナギを大量に獲って養殖して流通させる。その結果、川で育ってマリアナの産卵場に親魚として回帰するニホンウナギの数が減ってしまいました。

――国内の銀ウナギ、黄ウナギの保護についてのお考えはいかがでしょう?


塚本 産卵のために川を下っていく銀ウナギ(下りウナギ)については全国で全面禁漁が望ましく、できれば若魚である黄ウナギの漁業も、そして遊漁も10年くらいは禁漁にしたいです。また、これは国内だけではなく、日本が先頭に立ってニホンウナギの分布する東アジアの国々と一緒に実施するとさらに効果的です。少なくとも天然の下りウナギは東アジア全域で全面禁漁にしたら良いと思っています。

ニホンウナギの資源状況を考えれば、産卵に寄与する天然の下りウナギを全面禁漁にして保護し、食べるのは養殖のウナギにするのがいいと思います。ウナギでもいまだに天然信仰はありますが、今の養殖技術はとても向上していて、養殖物でも天然物にも引けをとらないどころか、むしろ天然物より脂がのっていたり、いやな臭みがなかったりして良質であるとも言えます。

そもそもウナギは川の中でも汚いところにいる長寿の魚です。長い間にたくさん汚染物質をため込んでいる可能性もあります。それに天然物は皮かゴムを噛んでいるように堅かったり、小骨がきつかったりすることもあります。安心、安全で、安価で、高品質、そして当たり外れの少ない養殖物を食べるようにしたいですね。ウナギについていうならば、天然信仰はきっぱりと捨てた方がいいです。

最近、YouTubeを見ると、ウナギ釣りの動画がたくさん上がっています。これは個人の趣味の問題で違法ではありません。しかし、それでなくともいま危機的状況に陥ったウナギ資源へのインパクトを広く煽ることになるので控えていただきたいものですね。

――下りウナギを10年間全面禁漁すれば資源は復活するとおっしゃる意味は?


塚本 10年というのはニホンウナギのおおよそ1世代の長さです。これだけ我慢すれば、少なくとも日本の養殖に必要な20トンくらいのシラスウナギは毎年やってくるような資源レベルに復活するのではないかという意味です。期待でもあります。今年はシラスウナギの来遊時期が例年より約2カ月も遅れたのでニホンウナギはもう絶滅したのではないかと大騒ぎになりましたが、ある世代のシラスウナギがやってきて川の中で大きく育ち、マリアナの産卵場に帰っていくのを見送るまでの10年間くらい我慢すれば、最低限の資源は確保できて、少なくとも今年のような大不漁にやきもきすることはなくなるのではないかという意味です。

しかし、生活環はぐるっと一周繋がっていますから、親になる下りウナギだけ保護してもダメです。より大きな、速やかな効果をあげるには、下りウナギの保護と同時に、シラスウナギも保護しなくてはなりません。実効ある池入数量*の制限を設け、東アジア全体でシラスウナギの採捕量を減らす努力をすべきです。それには、われわれ消費者がウナギを食べ過ぎないように努力する必要があります。

*池入数量:ウナギ養殖業者の養鰻用の池に投入されるシラスウナギの数量。国内のウナギ養殖業者は届け出制となっていて、シラスウナギの池入れ数については報告が義務づけられている。水産庁の統計データでシラスウナギの国内採捕量は、この池入数量から輸入量を差し引いて算出される。

ニホンウナギの一生。ニホンウナギは、5年から15 年間、河川や河口域で生活した後、海へ下り、日本から約2000km離れたマリアナ諸島の西方海域へ帰って産卵する。孵化した仔魚はプレレプトセファルス、レプトセファルス、シラスウナギへと姿を変えながら黒潮に乗って東アジアにやってくる。そして、日本や東アジア諸国の河口や河川に住み着いて成長する。東アジアの河川からマリアナに帰っていく回遊生態については依然として不明な点が多い(図:塚本勝巳教授)

――日本における(東アジア全域も含めた)資源保護の動きと、横連携について、何が重要で、今後はどうあるべきとお考えですか?


塚本 資源保護については日本の行政主導の非公式会議が東アジアの国々を巻き込んで持たれるようになりました。大きな前進です。これが将来にわたって機能するよう日本が主導して推し進める必要があります。ニホンウナギは「ニホン」と付いてはいますが、東アジア共通の水産資源ですので、東アジアの国々が協力体制を作って資源管理をしていく必要があります。

資源研究には長期のモニタリング調査が重要です。しかし、大きな黄ウナギや下りの時期の銀ウナギをモニタリング調査でたくさん捕るのは資源へ甚大な悪影響を与えます。これは調査とはいえ極力控え、最小限にとどめるべきです。一方シラスウナギが減ったのは事実ですが、まだ養殖して食べられるほどの数はやってきますので、少し調査のために獲るのは問題ありません。シラスウナギ接岸量のモニタリング調査を統一された同じ方法を用いて長期にわたって続けることが必要です。

東アジアの分布域のいろいろな場所に接岸してくるシラスウナギの加入量変動を正確に推定してニホンウナギ資源の動向を正確に把握するのです。これを何十年も続けることが重要です。そしてこの動向に基づいて科学的な対応策を立案する。気の遠くなるような話ですが、こうした地道なデータの積み重ねが将来にわたりニホンウナギを持続的に利用するために必要なのです。

ウナギの生態研究や養殖研究では、日本は世界をかなりリードしていますが、こと資源研究については、長期モニタリング調査のデータや信頼できる統計資料が乏しいために、日本はヨーロッパやニュージーランドなどに遅れをとっています。ニホンウナギの資源量に関するモニタリング調査はぜひ官が主導して東アジア全域でやっていただきたいです。大学は予算やマンパワーの問題で長期モニタリングという大規模調査はなかなか継続できません。それをやれるのは官しかありません。官が主導してウナギ資源とウナギの食文化を守るために、人を動かして長期的、組織的モニタリング調査を行い、資源管理の基礎資料を蓄積する必要があると思います。