2013年にスーパーマーケット業界から植物工場でのレタス生産・販売という異分野に参入し、話題を呼んだ木田屋商店が新たな取り組みをスタートさせている。最初の植物工場を4年目で単年度黒字にした実績を持つ同社が、さらに次の段階に歩を進めた。10月1日から稼働を始めた第2工場では高密植栽培を行い、徹底的に省スペース化を実現。人件費、初期設備コスト、電力費という植物工場の3大コストをそれぞれ半減させたのだ。同時に、これまで積み上げてきた栽培技術や運用ノウハウなどを他社に提供するコンサルティング事業を展開している。業界で独自の存在感を示してきた同社のノウハウが広がれば、難しいとされる小規模植物工場の黒字化に一つの道筋がつく。

木田屋商店がこの10月1日に稼働させた、小浜植物工場グリーンランド 第2工場で生産中のレタス。高密植栽培技術によって単位面積当たりの生産量を上げ、様々なコストを削減している。(写真:木田屋商店提供)

千葉県浦安市を中心にスーパーマーケット事業を展開する木田屋商店が、福井県小浜市で植物工場をスタートさせたのは2013年のことになる。江戸時代からの米問屋というルーツを持ち、スーパーマーケットを核に弁当・総菜事業や不動産事業などを営む同社が畑違いとも言える植物工場ビジネスに参入した際には驚きの声が上がった。同時に、自治体からの補助や原発周辺地域の割安の電力代などを上手に活用した事例としても各方面から取り上げられた。

2013年に第1工場を立ち上げた当初は生産するレタスの品質が安定しなかったり生産効率が思ったほど上がらなかったりと手間取ったものの、その後、植物工場に関する技術的な総本山でもある千葉大学の支援などを仰ぎながら、試行錯誤を繰り返して栽培・生産技術や運用ノウハウを磨いてきた。2016年には育苗棟を増設。今では第1工場の生産キャパシティを日産600㎏から日産800㎏にまで引き上げることに成功、安定的に供給する体制を構築している。

そもそも小売を本業とする同社にとって販路の開拓と確保は得意とするところだ。出口戦略をしっかりと構築した上で安定的に生産・供給する事業モデルは、植物工場を成功させる一つのお手本になり、業界内でも独自の存在感を示している。現在は、スーパーなどの小売を中心に、高品質のリーフレタスを「greenLand」ブランドとして生産・販売している。

3大コストを半減させた新工場を稼働

その木田屋商店が新たに立ち上げたのが同じ小浜市にある第2工場だ。第1工場に比べて延床面積を半分程度に抑えたにも関わらず生産量はほぼ同規模を確保している。生産効率を格段に上げた新しい時代の工場として業界の耳目を集めている。同社が「これからの日本の植物工場の基礎にするくらいの自負と自信があります」(同社小浜植物工場グリーンランド 工場長の島田悠平氏)と胸を張る、コンパクトで生産性の高い植物工場だ。同社ではこの第2工場で、食品加工などの業務用市場に向けて低コストで高品質のリーフレタスを生産していく。

木田屋商店 小浜植物工場グリーンランド 第2工場の外観。日産600㎏のレタスを生産するキャパシティを持つ。木田屋商店は第1工場と合わせて、日産1400㎏の生産ができる計算だ。(写真:高山和良)

10月1日に稼働し始めた新しいこの工場では、リーフレタスを高密植で栽培することによって工場の延床面積を800平方メートルと従来から半分近くにした。それでいて日産600㎏の生産量を確保している。これまでの植物工場で同量のレタスを生産するためには1300〜1500平方メートルの延床面積が必要だと言われている。同社の第1工場も約1300平方メートルからのスタートだから、第2工場がかなりコンパクトな設計になっていることがわかる。

小さくなったのは延床面積だけではない。人件費と電力代についてもそれぞれ半減させている。同社で第1工場と第2工場、二つの現場を率いる島田工場長は次のように語る。

「第2工場では、植物工場の3大経費、初期コスト(建設・設備の初期投資)と人件費と電力代が従来の半分にできました。従業員数は、日産600㎏の工場だと従来は1日15人ぐらい必要だったのが1日7、8人で済みます。電気代も1日当たり約4000キロワットアワー(kWh)と従来の半分。建築費用も従来の日産600 kg規模だと7〜8億円かかりましたが、ここは土地代を抜いて3億5000万円ほど、土地代を入れても4億円ほどですからこれも半分程度になっています」

第2工場について語る木田屋商店 小浜植物工場グリーンランド 工場長の島田悠平氏。窓の中に見えるのが生産設備。写真では撮影条件によって白く明るく映ってしまったが、一つひとつの棚では青々としたリーフレタスが高密植栽培されている。(写真:高山和良)

コスト半減のカギは高密植栽培

第2工場で3大コストを削減できるようになった最大のポイントが、高密植栽培技術だ。

一般に、植物工場では養液栽培を行うパネルを上下に何段にも積み上げたユニットを複数設置して工場内の空間をフルに使う。当然、工場内の環境は清浄に保たれ、栽培に適した湿度・温度などが精密にコントロールされている。この第2工場では、60㎝×90㎝のパネル1枚の上で生産するレタスの量を第1工場の2倍に上げた。具体的には、第1工場ではパネル1枚当たり約2㎏だったものを、第2工場ではパネル1枚当たり約4㎏にしている。同時にパネル間の上下の間隔も狭くすることで空間効率を高めている。

レタスの密植度がまったく異なるため、栽培条件も大きく変わってくる。第2工場では、LEDの光の強さや照らし方、反射板を使って光を有効に使う方法など、様々に試行錯誤を繰り返しながら条件を最適化していった。

植物工場でかかる経費の比率。人件費、減価償却費、エネルギー費(電力代)が三大経費。減価償却費は、工場の建設や設備にかかった投資額を毎年(毎月)ある比率で経費として計上していくもの。島田工場長によれば、この三つで植物工場にかかる経費の全体の約70%を占めると言う。逆に言うと、この三つをそれぞれ半減させれば全体の経費を30〜40%削減できる。最近では「建築費が高騰しているため、減価償却費の比率はこの図よりさらに上がっている」(島田氏)。 (図は、木田屋商店の資料から)
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島田工場長は「一番重要なポイントはやはり LEDの光の強さです。レタスの成長速度をいかに早めるかが重要なんですが、あまり早く育てすぎると生理障害が出てしまいます。いわゆるチップバーンというものです。この障害が出てしまうと商品価値がゼロになるので、それが出ないようにギリギリの条件で生育させる必要があります」と語る。チップバーンというのは「縁腐れ病」とも呼ばれ、強い光の下や高温下での急激な成長の際に、カルシウム不足が原因となって起こる生理障害のことだ。この障害が出てしまうと、レタスの縁の部分が傷んでしまい、商品価値を大きく損なってしまう。

木田屋商店では、こうした障害が起こらないように、それでいて成長速度をできる限り上げられるよう栽培条件を煮詰めていった。同時に、栽培に付随するいろいろなオペレーション方法を一つずつ積み上げていった。例えば、レタスをパネルから取り出して別の容器に移し替えたり、昇降機を使って下に下ろしたりするときの細かい作業ノウハウなどがそうだ。

第2工場は稼働して間もないこともあり、まだ課題は残る。例えば、成長後のレタスの取り出しなど、オペレーション上のノウハウなどがそうだ。島田工場長も「1パネル当たり4㎏の収穫量になると物理的にぎゅうぎゅうです。こういう密植になると取り出す作業もけっこう大変になります。その辺が課題ですが、年内には落ち着いてくると思います」と順調な出だしに自信を見せる。