料理を舌でつぶせるほど軟らかくする、細胞を壊さずにピュレにする、さらには爆破によって食品を軟らかくする――。いま、介護、健康、環境などをターゲットに、さまざまな新しい調理技術が登場しており、すでに一定の役割を担っている。今後、こうした技術がさらに普及していくカギは、意欲的な料理人の存在にあるようだ。

介護が必要な人や、咀嚼や嚥下に障害がある人のために販売されている「あいーと」という食事がある。鮭の塩焼きや筑前煮など、多くの人が長年親しんで来た身近な料理を冷凍食品として販売しており、電子レンジなどで温めてすぐに食べられる。ただ、そこには盛りつけられた料理を眺めるだけではわからない秘密が隠されている。下の写真のように、どれもスプーンで押すと手品を見ているように簡単につぶれていくのだ。

介護支援食の「あいーと」では、料理の外見はそのままに舌でつぶせるほど柔らかい(写真:イーエヌ大塚製薬)

食べ物らしさが食欲を引き出す

特殊な技術を用いて、舌でくずせるほど軟らかく加工した「あいーと」は、医療用の栄養剤や食品を扱っているイーエヌ大塚製薬(本社:岩手県花巻市)が製造・販売している。

特殊な技術というのは、食品の繊維を分解する酵素を食品中に均等にしみ込ませる技術だ。酵素液に浸した食品に対して減圧と加圧を繰り返すことで食品に酵素をしみ込ませ、その酵素の作用で食品を軟らかくする。たとえば、レンコンなどの硬い野菜や肉、魚も、形を保ったままで、硬さを常食の100分の1から1000分の1にまで軟らかくすることができるという。

咀嚼や嚥下に障害がある人のための食事には、食べ物を小さく刻んで食べやすくした「きざみ食」、よく煮込むなどによって軟らかくした「ソフト食」、ミキサーで粉砕した「ミキサー食」(液状)や「嚥下食」(ペースト状)、重湯などの「流動食」などの分類があり、その人の身体的な状況によって適切なものを選ぶ。

ところが、これらの最大の難点は、見慣れた「食べ物らしく見えない」ところだった。もとは誰でも知っている煮物でも、細かく刻んだり、ペースト状になったりしてしまえば、それが何であるかがわからない。それだけでなく、見た目が食べ物らしくないため、食欲が減退する。食が細くなれば当然、栄養不足が起こったり、栄養のバランスを欠いたりということになる。

そこで、いったんミキサーにかけた食事を増粘剤で固め、型などを使って食べ物らしく成形することも行われている。しかし、その多くはリアリティがある外見ではなく、記号として魚や野菜の形をしているという程度のものだ。食べる人に合った硬さにしたり、少しでも食品を思い浮かべながら食べたりする助けにはなるが、実際に食事を楽しむには納得いかない人も多いのが現状だ。

しかし、「あいーと」の場合は、一度形を失ったものから改めて造形するのではなく、料理そのものを、形を保ったまま軟らかくするという点が画期的といえる。