最近、映画ファンの間で「ごはん映画」という言葉が使われている。食べ物が劇中で目立つ、あるいは重要な役割を担っている映画のことだ。なかには、レシピの特設サイトの開設やレストランとのタイアップなど、リアルな食事のシーンへと進出、展開する動きも見られる。映像世界と食事とを融合させるエンターテインメントのあり方と、それを支える技術によって、食の楽しみ方や食文化が今後、大きく変わる可能性がある。

2010年、「東京ごはん映画祭」が立ち上がり、昨年までに6回開催された。映画祭の案内文では、ごはん映画とは「食でつながる人と人を描いた映画」「ごはんが印象的な映画」と説明している。

昨年のごはん映画のラインナップには、「NOMA, MY PERFECT STORM」(原題。邦題は「ノーマ、世界を変える料理」)や「料理人ガストン・アクリオ 美食を超えたおいしい革命」のように現在の料理界で最も注目されるシェフらのドキュメンタリーもあれば、現代アメリカのグルメシーンを背景としたロードムービー「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」もある。邦画では食をカギに人物のたどった道と心を描く「あん」「深夜食堂」などが上映された。

こうした「ごはん映画」が上映される際は、パンフレット、公式ブック、Webサイトにレシピを掲載することが多くなっている。また、今年9月公開の「にがくてあまい」のように、クックパッドに特設サイトを設けるケースもある。さらに、レストランとタイアップし、映画に登場する料理を上映期間中に実店舗で提供するといったことも珍しくなくなった。

かつてメディアミックスと言えば、書籍、映画、テレビ、オーディオなどを併行して展開することだったが、今日ではこれにレストランや家庭のキッチンが加わり、従来専ら視聴覚に訴えてきたエンターテインメントが味覚・嗅覚にも進出してきているわけだ。

劇場が映像作品とリアルの食事を融合させる?

さて、外食業界では、近年コンビニエンスストアにお客を奪われて客数が伸び悩む店が増えている。それは半面で、消費者がプロの作る出来たての料理を専門店で食べる機会が減っていることを意味する。特に若い世代を中心に食経験が単純になっていることも危惧される。こうした状況は、日本のクールジャパン戦略が「食の楽しみ」や「食文化」にプロモーションの軸を移そうとしている動きに水を差しかねない。

映像の鑑賞と食を近づける動きは、食経験の豊かさを取り戻すための打開策の一つになり得る。こうした新しい動きが、今後さらにどのような形に進んでいくかをいくつか考えてみたい。

昨年、前述の「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」のBlu-ray Discが発売される際に開催された試写会が、そのヒントの一つとなる。映画は、近年過熱する料理ブログの一つに酷評されたことから職を失った腕利きの料理人が、フードトラック(調理機器を搭載した移動販売車)でアメリカを横断しながら、訪れる各地の名物サンドイッチを採り入れていくというもの。この試写会では、実際に映画に登場したさまざまなサンドイッチをプロが試作し、来場者に提供し、好評を得ていた。

「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」の試写会では、主人公たちが作ったサンドイッチの数々が作られ試食に供された
フランスの映画監督と食肉の専門家が最高のステーキを求めて世界中を旅する「ステーキ・レボリューション」が2015年に上映されたときには、映画に登場した日本のステーキ店がフェアを実施した(チラシは公開当時のもの)