これまで人の力に頼る場面が多かった日本の農業。トラクターなど機械を使うことで省力化には取り組んでいたが、自動化はそれほど進んでいなかった。ただ、画像認識という新たな“目”を得ることで、農業にAIを駆使した自動化システムが次第に広がっていく可能性がある。既に先進事例が日本では、例えばキュウリ農家がディープラーニングを応用して、最適な時期に人手をかけずに収穫できる仕組みを作り上げた。米国では害虫駆除に画像認識とIoTが使われ始めた。「画像認識こそ、農業にとって未来の福音となる」。そんな兆しが見えてきた。

ディープラーニングによる画像認識を活用してキュウリ選別の効率化を図る――静岡県湖西市の若き農家、小池誠氏の取り組みが話題を呼んでいる。実家のキュウリ農家を継いだのを機に、手作業で膨大な時間を要する等級ごとのキュウリの選別を自動化できないか?と考えたのがきっかけだ。

もともと自動車部品メーカーでソフトウエアエンジニアをしていた小池氏は、米Googleが公開しているオープンソースの機械学習向けライブラリ「TensorFlow」を用いて、キュウリの仕分け機を自作した。狙いは、仕分けの判断をある程度AIに任せること。熟練者が仕分けたキュウリの画像を教師データとして読み込ませ、改良を重ねた結果、最新の試作機(3号機)では7割程度の正答率で等級ごとの選別が可能となった。

小池氏が自作したキュウリ仕分け試作機の3号機(小池氏が公開したYouTubeより)

熟練技の可視化と作業負荷激減に画像認識が大活躍

農業の作業は、一見すると単純に感じるものが多い。ただ、何気ない作業の中に熟練の技と長年の勘が欠かせない部分がいくつもある。例えば、見て、軽く触れて、出来映えがどうか、収穫前ならあと何日くらいでちょうどよくなるかを判断する必要があるし、選別の際には見ただけでどのサイズ分類かを判断しなければならない。こうしたノウハウは、若手や新規就農者にとっては大きな壁になる。小池氏の例はまさに、画像認識のAIがその壁を超える可能性を示した好例である。こうして自動化できれば、経験が浅い就農者にとっては、ハードルが一つ取り除かれることになる。もちろん、ベテラン農家にとっても作業負担の削減になるため、効果は大きい。

AIをトマト栽培に活かそうとしているのが静岡大学 学術院情報学領域の峰野博史准教授である。科学技術振興機構(JST)のさきがけ(戦略的創造研究推進事業)研究者である峰野准教授は、AIを使うことで上手な水やりを実現しようとしている。目指しているのは、熟練農家でもなくてもできる「甘いトマトの栽培」である。

与える水分を極力減らすとトマトが甘くなることをヒントに、水やりをAIで制御して簡単においしいトマトを栽培できるようにしたいと考えたのがきっかけだった。静岡県農林技術研究所と共同で、トマト用のビニールハウスにカメラやセンサーを設置。IoT化を図り、葉や実の様子を常に把握できるようにした。

トマトのハウスにはカメラをはじめ、数々のIoT機器が設置されている(JSTが公開したYouTubeより)

IoT化で意識したのが、人が目で見てもわからない部分、経験と勘に頼っていた部分の可視化である。そこでビニールハウスの中の様々な部分のデータを計測し、膨大なデータを蓄積。静岡大学のコンピュータでデータを学習させ、それらの数値とトマトの出来を評価した。こうして見つけた目安の一つが「葉のしおれ」だ。カメラ画像の解析とディープラーニングによって葉の動きのベクトル情報のみを抽出し、しおれの検出と予測に成功した。これで、トマトの水不足といったストレスを科学的に検証できる可能性が出てきたという。峰野准教授は、「人間が気づかなかった条件を、コンピュータが見つけられれば、そこから人間が学んで、新しい栽培の方法を生み出していくことができるかもしれない」と話す。

トマトづくりでのAI活用は、ほかにも例がある。例えばトマト収穫ロボット(関連記事)。AIを使い、トマトの色(画像)から収穫に適したものを見つけられるようにすることで、ロボットによる自動収穫を実現している。

トマトに限ったことではないが、ゲノム編集により、おいしい野菜が育つ種を作れるようになる。このゲノム編集の際に、例えば高リコピンなど、おいしい野菜を作れるパターンを見つければいい。AIを使うことで、こうしたパターンを効率的に見つけられる可能性がある(関連記事)。