キカイではなく、生物の嗅覚センサーを活用

新たな病気診断を実現するセンサーは、ここまで挙げたような人工的なデバイスばかりではない。例えば、早期のがん発見手法としては、“生物を使った嗅ぎ分け”が注目を集めている。九州大学助教/HIROTSUバイオサイエンス代表取締役の広津崇亮氏が2015年に発表した研究成果によるものである。優れた嗅覚を持つ線虫が、がん患者の尿には近付き、健常者の尿からは離れる特性(化学走性)を生かした(写真2)。

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(写真2)尿1滴で検査できる「N-NOSE」 共同研究開発を行う日立製作所は、より大量のデータを検査できる自動解析装置を試作した。

尿1滴で検査できる非常にシンプルな手法でありながら、これまでの実証では、胃がん、大腸がん、すい臓がん、食道がん、胆のうがん、胆管がん、前立腺がん、乳がん、肺がん、盲腸がんなど10種類ほどのがんに線虫が反応することが分かった。ステージ0、1といった早期段階でも高感度で反応し、判定感度は93.8%と高い数値となっている。

「N-NOSE(エヌ・ノーズ)」と名付けたこの検査手法では、診断結果が出るまでに要する時間は約1時間半。検査システムのコストも安く済み、新興国でも比較的導入しやすいため、早い段階での社会実装に向けて研究を重ねている。

同様にがんのニオイを嗅ぎ分ける生物としては、がん探知犬がよく知られている(写真3)。実際に、千葉県にあるドッグラボが、特殊な訓練を積んだ犬による「がん判定サービス」を提供中。患者が判定キットに自らの呼気を吹き込んでドッグラボに送付すれば、がん探知犬が判定を行う。

(写真3)がん探知犬が呼気を嗅ぐ様子 ドッグラボの紹介動画より引用。

2017年には胃がんの死亡率が高い山形県金山町で早期発見手段として採用され、数カ月後の中間報告では陽性反応の患者が数人見つかった。現在、がん探知犬は日本に5頭しかいないが判定確率はほぼ100%。日本だけではなく、海外からの引き合いも多い。

ほかにも、欧米では糖尿病アラート犬の訓練が進む。糖尿病患者の呼気を嗅ぎ分け、患者に低血糖を警告する。日本でも育成に向けたクラウドファンディングが立ち上がっている。