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私たちの食べる力で未来の環境を作ることができる

(2016/11/30)

 社会派レシピスト、食の探偵団・団長、のサカイ優佳子です。

 先日、兵庫県高岡市でコウノトリプロジェクトに取り組む方々にお話を伺う機会がありました。

 コウノトリは世界でも3000羽ほどしかいない絶滅危惧種。農薬の使用などによる環境の悪化で、1971年、野生のコウノトリは日本から姿を消しました。最後に見られたのは兵庫県の但馬地域にある豊岡市。

 大型で肉食のコウノトリが生きていくためには、エサになる生きものが生息する豊かな自然と、コウノトリとの共存を受け入れる文化の両方が必要であるとして、豊岡市では地域を挙げての取り組みが50年ほどにもわたって行われてきました。その甲斐あって来年には野外で暮らすコウノトリはとうとう100羽になるといいます。

♪農家の意識も変わった

 そんな豊岡市でつくられる「コウノトリ育むお米」。農薬や化学肥料に頼らないコメづくりを進め、田んぼに通常より水を長くはっておくことによって、例えばオタマジャクシが育つ環境を実現しています。自然の生態系を大切にするコメづくりを始めてから農家の意識も変わってきたと言います。

「蛇をみれば昔なら殺してしまったけれど、この蛇がいることで自然がきっちりと回っていくと思えば殺す気にはならい」と。さらには、環境に良いだけではなく、美味しさを追求するために乾燥方法にも工夫し、粒も大きい物だけを選別して販売するようになりました。その大きさに満たないものは米粉として販売するなどして、もちろん無駄を出さないようにしています。

 ある講座で白がゆを炊いて、30名ほどのみなさんにこのお米を塩のみで味わっていただきました。粒の大きさ、コメの甘みといったことを口にする人が多かったのが印象的でした。ほんの少しのことではありますが、粒の大きさがある程度以上に揃うことで味わいの充実感が違うようです。私はこのシンプルなお粥に味わいの深みを感じました。

♪給食にもコウノトリのお米

 今、豊岡市の学校給食にはコウノトリ育むお米が使われています。これが実現したのは小学生たちの声から。学校でコウノトリプロジェクトについて勉強した子供たちが「このお米をみんなが食べることでコウノトリも住める環境が実現する」と考え、自ら市長との約束を取り付け、学校給食に導入してほしいと直談判したことで実現に至りました。

 お話を伺った役場の担当者の言葉の一つ一つに「先輩たちが苦労して進めてきたプロジェクトを引き継ぎ、未来に繋ぐんだ」という思いが感じられました。

 私たちが何かを食べるために使うお金は、巡り巡って未来の社会に影響を与えていきます。そんな視点を大切にしていきたい、そう改めて感じることになりました。

 その後、ともにお話を伺い、試食していただいた講座の参加者の方々の何人かは、このお米を注文したとのこと。また皆口々に「こんな取り組みをしているところがあるなんて、本当に感動しました」と話していました。

 モノの後ろにあるストーリーがきっちり伝われば人は動きます。自然をこれ以上壊してはいけないという思いはおそらく誰もが抱いていても、そのために自分が何をしたらよいのかわからない、だから何もできないまま諦めてしまうという状況にいる人は少なくありません。

 今必要とされているのは、消費者一人一人と食の生産現場を繋ぐ語り部と、一人一人の小さな行動がよりよい未来に繋がることをみえる化することだと思います。

 SNSを使う人がこれだけ増えている今、一人一人がそんな未来に繋がる発信をしていくだけでもきっと何かが変わっていくはず。一人の力は小さくても、まずは小さな行動を起こすことこそが大事。食べる力、語る力を束ねていければと思います。

コウノトリ野性復帰プロジェクト
http://www.city.toyooka.lg.jp/hp/genre/project/

お知らせ

9月22日にサカイさんの新刊が発売されました。「毎日食べたい乾物ヨーグルトレシピ決定版」(世界文化社)。

乾物をヨーグルトで戻すという食べ方を提唱したサカイさんならではの、とっておきレシピが多数紹介されています。肉や魚と合わせた主菜やスイーツ、朝食レシピまで毎日の食卓のヒントが載っています。

********サカイ優佳子(さかい・ゆかこ)プロフィール 「五感を重視した食育ワークショップ『食の探偵団』を2002年より田平恵美とともに主宰。田んぼを残したいという思いから07年より米粉の利用法の提案を続け、11年からは『乾物は未来食』という思いから伝統的乾物の新しい使い方や、世界各地の乾物の知恵、料理法の研究を開始。DRY AND PEACEプロジェクト推進中。著書に『感じる食育 楽しい食育』『米粉ランチ』等。
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