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空き家を「地域の居場所」にしよう 世田谷区でプロジェクト始動

(2015/01/20)

「シェア奥沢」の庭を望むメインルーム。奥の土壁のある一角は耐震補強のため増築しました(写真提供 シェア奥沢)
昨年度、全国で820万戸。高齢化や相続問題により増え続けている「空き家」。治安や景観の悪化につながるとして各地で対策が急がれています。東京都世田谷区では2013年、空き家を地域のために有効活用するプロジェクトが始動。「空き家×地域貢献」の可能性と課題が見えてきました。(文と写真 門馬聖子)

もしも空き家のオーナーだったら?

昨年度のモデルケースに選ばれたコミュニティスペース「シェア奥沢」。自宅(写真左)に隣接する離れ(右)を地域に開放しました(写真提供 シェア奥沢)

 住宅土地統計調査(2008年)によると、約3万5000戸の空き家があるとされる世田谷区。もともと地域貢献活動の盛んな土地柄、空き家活用も「地域」が解決のキーワードと考えられています。世田谷区から委託を受け、一般財団法人 世田谷トラストまちづくりが開設した「空き家等地域貢献活用相談窓口」もその1つ。空き家・空室・空き部屋のオーナーと活動の場を探す地域の団体等を結びつける仲介役です。開設して1年半。「きぬたまの家」「いいおかさんちであ・そ・ぼ」などマッチングに成功した例もありますが、相談件数に対してマッチング件数はまだまだ少ないのが現実。なぜでしょうか。

「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル」公開審査会にて。NPO法人にじのこによる10分間のプレゼンテーション

 もしあなたが空き家のオーナーだったら? 地域のために積極的に家を提供しようとしますか? それよりも採算性のある賃貸住宅にしようと考える人が多いのでは。「地域貢献に理解のある空き家のオーナーを掘り起こすことが第一関門です」と世田谷トラストまちづくりの浅海義治さん。窓口に集まってくる空き家は、借り手のつかない古家もあります。現在の耐震基準に満たない家も多く、活動団体が「じゃあ耐震補強をしてから活用しましょう」と言っていられるほど時間的、予算的に余裕はありません。

千葉大学大学院教授であり世田谷区住宅委員会委員長でもある小林秀樹さんをはじめとした5人の審査員。厳しくもあたたかな目で見守ります

 この相談窓口を後押ししようと始まったのが、「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル」の募集プロジェクト。空き家等を地域のために有効活用したいオーナーや団体に初期費用として最大200万円が世田谷区から助成されます。第1回目の昨年度は5団体から応募があり、「シェア奥沢」「グリーフサポートせたがや」「タガヤセ大蔵」の3団体が採用となりました。「空き家等」とされているのは、一戸建ての「空き家」、集合住宅の「空き室」に加え、現在住んでいる家の「空き部屋」まで含まれます。

 昨年度の採用例を見ると、空き家の種類から活用方法まで三種三様。今年度はどんなアイデアが飛び出すだろうとわくわくしながら、その公開審査会を訪れました。

ゆるやかに地域とつながる「縁側」に

現在、0歳~6歳の子どもが一日10人通う世田谷区給田のにじのこ幼児グループ。この日のプログラムは運動会ごっこ

 2014年10月26日、「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル」公開審査会では、応募団体「NPO法人にじのこ」の審査が行われました。第2回目ということでより活発な応募状況を予想していましたが、1団体のみの応募というのはちょっと意外でした。活動をしたい団体は多いはずなのになぜ?と思いましたが、考えてみれば、活用したい空き家をすでに見つけ、活動の見通しも立っていることが条件。空き家活用が一筋縄ではいかない現状を物語ってもいます。

「空いている部屋を地域の人に開放するなど新しい活用法を探っていきたいです」とにじのこ施設長の藤田あやさん

 NPO法人にじのこは、発達に遅れや偏りのある幼児、学童、成人への支援グループ。1979年に「遊びの会」からスタートし、地域で支援を必要とする人とその家族を支えてきました。幼児と学童が同じ施設で活動していましたが、運営をスムーズにするため、2014年9月、幼児グループの施設が移転。新しい拠点は、地元の不動産屋から紹介された築9年の空き家でした。「インターネットで1000件以上検索した後の“出会い”でした。不動産屋さんが理解のある方で、大家さんを説得してくれました」と経緯を語るにじのこ施設長の藤田あやさん。

自由に出入りできる「縁側」となる予定のベランダ。住宅地ながら家の前には畑が広がり、自然環境にも恵まれています

 活動開始とちょうど同じ頃、「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル」の存在を知りました。藤田さんはプレゼンテーションでこう訴えます。「今、子どもたちは室内遊びしかしていません。劣化したベランダを整備してフェンスを作れば、外の風に吹かれながら気持ちよく遊ぶ縁側になります。また庭に砂場を作って、地域の子どもたちにも遊んでもらいたいです」。他に、駐輪スペースを広げること、プレイルームに防音マットを敷くこと、PC環境を整えることなど、すでに活動しているからこそ見えてきた不備不足を訴えました。

 審査のポイントは4つ。1.実現性と継続性、2.地域貢献度、3.モデル性、4.費用対効果です。5人の審査員からは、運営費から地域への広がりに至るまで詳細な質問が投げかけられます。採用の可否を判断するというより、これまでのにじのこの活動に敬意と期待を寄せ、みんなでよりよい活動の可能性を探っている、そんな印象すらありました。そして全員一致で審査通過。

子ども2人にスタッフ一人が対応します。聴覚の敏感な子どものためにプレイスペースに防音マットを敷く計画

 「発達障害児のサポート施設を地域に開放する試みは全国でも例がないと思います。それだけでも画期的」と審査委員長の小林秀樹さんはエールを送りました。この1月、新しく生まれ変わるにじのこで、子どもたちが光と風を受けて元気に遊ぶ姿を眺めたいですね。

自宅の離れを開放した交流スペース

「音楽、アート、料理などテーマがあると仲良くなれます」と堀内正弘さん。NPO法人 土とみどりを守る会も主宰しています(写真提供 シェア奥沢)

 では昨年度採用されて、現在「地域の居場所」になっているモデルケースを。自由が丘駅から徒歩5分。閑静な住宅街に「シェア奥沢」と表札のある築80年の民家があります。多摩美術大学で教鞭をとるオーナー堀内正弘さんの自宅に隣接する「空き家」だった離れを開放した活用例です。

 「シェア奥沢」には地元の人をはじめ、共通の関心・テーマを持つ人が遠くからも集まってきます。自宅とは扉1枚でつながっており、在宅介護中の堀内さんのお母さんも折々の交流会に顔を出します。取材の日には、秋の庭を眺めながらのヨガ教室が行なわれていました。ふたつの8畳間と縁側を一体化した26畳ほどのメインルームでは、音楽コンサートや映画鑑賞会、シェアトークというゲストを中心にしたお話会、一緒に作業するコワーキングなど、さまざまな活動が繰り広げられています。隣接して広いキッチンがあるので食事を作りながらの交流会も盛んです。

堀内さんと付き合いのある若い人や地元の人が協力して畳をはがし床を張りました(写真提供 シェア奥沢)

「コミュニティスペースを作りたいという思いはずっとありました」と堀内さん。その背中を最初に押したのが、「空いている部屋を作品制作のために使わせてもらえないか」と申し出た大学の教え子たち。さらに、慶應義塾大学が設けたコミュニティスペース「三田の家」の廃止が決まり、そこを使っていた人たちが活動の場にと望んだのが契機となり、2013年6月頃から人びとが出入りするようになりました。「20年近くも使われていなかった空間を彼らや地元の人が協力して片付け、改修工事も手伝ってくれました」(堀内さん)

 その後、「世田谷らしい空き家等地域貢献活用モデル」事業に採択され、耐震補強工事が行なわれ、2014年4月に正式オープン。200万円の助成金は、耐震補強工事の一部に充てられました。「業者の提案では主屋も含めて全体を耐震補強工事しなければならないとのことで1100万円かかると言われ慌てました。私は建築家なので、既存構造を活かしたまま外側から耐震補強するアイデアを出し、利用者さんにも工事の一部を手伝ってもらうことで、総工事費を440万円に圧縮することができました」(堀内さん)

燦々と光が注ぐメインルームで開かれるボタニカルアートの教室(写真提供 シェア奥沢)

 シェア奥沢は空き家活用の成功例と言われていますが、改修工事を安くあげる堀内さんの工夫や運営のノウハウがあってこそ実現できたもの。一般的な「空き家×地域貢献」の難しさを堀内さんは語ります。「空き家活用は、空き家のオーナーと活動団体を結びつけて一朝一夕にできるものではありません。オーナーが高齢者だと面倒なことには及び腰になってしまう。一方で、自己実現や生きがいを求めて何かをやりたいというエネルギーを持った人がいる。私の場合、地元の人や若い人たちと普段のお付き合いがあったので、そんなご縁がタイミングよく結びついて実現できたのだと思います」。

 さらに堀内さんはこう続けます。「普通だったら、まず建て替えて貸家にすることを考えるでしょう。でもちょっと懐かしい家の風情をみんなに伝えたく、補強してでも残したいと思いました。ごくあたりまえの家ですが、ここに来る人はとても落ち着いてリラックスできるとおっしゃいます」。オーナーの経済的な問題をクリアするだけでなく、「その空き家は未来へ残すべき魅力的空間か」という価値判断の視点にも気づかされました。

 空き家活用は「行政がなんとかしてくれるだろう」ではなく、「自分たちでなんとかしよう」という意欲がないと前に進みません。とはいえ、世田谷区のプロジェクトは意欲ある人たちを応援する有意義なものであることは間違いないでしょう。今回、応募件数1件だった「空き家等地域貢献活用モデル」事業は、その後追加募集をし、もう1件採用が決まりました。増え続けていく空き家が「地域の居場所」として甦りますように。これからも興味深く見守っていきたいです。

シェアキッチンでわいわいと料理し食事を。世代を超えた交流が始まっています(写真提供 シェア奥沢)
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一般財団法人世田谷トラストまちづくり:http://www.setagayatm.or.jp/trust/support/akiya/
NPO法人にじのこ:http://nijinoko.jp
シェア奥沢:http://share-okusawa.jp/

(2015年1月20日)
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