クローズアップ

アーキテクチュアル・シンキング アイデアを実現させる建築的思考術

「関係性」を構築できれば、「形」は自動的に決まる

連載第3回●NOSIGNER代表・太刀川瑛弼氏(前編)

ブランディングデザイナーの西澤明洋氏が、建築系の出身でありながらも現在は建築系以外の分野で活躍するデザイナーやクリエーターなどにインタビューし、発想の原点を探っていく連載「アーキテクチュアル・シンキング アイデアを実現させる建築的思考術」。今号と次号に登場するのは、法政大学や慶應義塾大学大学院で建築を学びつつも、現在は主にソーシャルデザインの分野で活躍するNOSIGNER代表・太刀川瑛弼氏の前編。

西澤:連載「アーキテクチュアル・シンキング」は、建築出身のデザイナーやクリエーターにインタビューし、発想の手法や考え方などを明らかにしようとするものです。僕も建築出身でありながらブランディングデザインを手がけていますので、ほかの方はどういった意識で取り組んでいるのかを知りたいと思ったのが、この連載を始めたきっかけでした。太刀川さんも建築がバックボーンにありますが、今ではさまざまな分野で活動していますね。そうした背景にはどういった意識があるのか、僕の考えるアーキテクチュアル・シンキングと太刀川さんが行っている方法論なども比較しながらお聞きしたいと思います。まずは太刀川さんの学生時代のことを教えてください。

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太刀川瑛弼氏(たちかわ えいすけ)●NOSIGNER代表。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント学科特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける(写真:名児耶 洋)

太刀川:僕は法政大学で建築学科を卒業しましたが、その後に進んだ慶應義塾大学大学院では、正確に言うと建築学科ではなく、システムデザイン工学科の中で建築空間の設計を専攻していました。そのとき慶應には建築家の隈研吾さんや妹島和世さん、それに坂茂さんもいて、学生たちに指導していたんですよ。今から思うと、すごい時期でした(笑)。

西澤:それは、本当にすごいですね。

太刀川:そうなんです。このとき、全国の建築学科の学生を中心に運営されるワークショップ「Archi-TV」の立ち上げに参加しました。これは日本建築学会の関連イベントで、「TV」とありますが実際のテレビ番組とは関係なく、「24時間テレビ」をもじったワークショップです。さまざまな分野の専門家に講師をお願いし、本当に24時間ぶっ通しで行いました。言わば「24時間耐久ワークショップ」といった感じです。今、考えても本当に過酷なプログラムで、よくオーケーが出たものだなと(笑)。

 Archi-TVのイベントでは、建築の景観とか構造をはじめ、意匠や表現などいろいろな専門家をゲストにお呼びして話を聴くことができたので、建築以外のデザインのフィールドを想像することに関してもとても参考になりました。それまでは「建築家になりたい」と漠然と思っていましたが、多くの方に接するうちに「いい建築とは何なのか」を考えるようになりました。このとき、建築から建築の良しあしを考えるのではなく、人の感覚とか、人が空間や建築とどう関係するのか、その関係性の方がはるかに重要ではないかと思いました。そこで2年目に僕がArchi-TVの代表になったとき、建築だけでなく、照明や音響といった人の感覚を深掘りしている専門家を招いて、体感をテーマとしたワークショップを開催したのです。

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西澤明洋氏(にしざわ あきひろ)●ブランディングデザイナー/エイトブランディングデザイン代表。1976年滋賀県生まれ。企業のブランドから商品・店舗開発など幅広いデザイン活動を行う

 イベントは大成功でした。でも終わってみると、どこからが建築でどこからが建築ではないのかが、自分でますます分からなくなりました。関係性を問うのが「建築」ならば、照明や音響だけでなく、壁に塗った「漆」だってそうではないか。関係性を追求し、深掘りしていくことは建築以外でもできるのではないか、と次第に感じるようになったのです。

 そういった中でプロダクトデザインに関心が出てきたので、学生のうちに独学してみることにしました。自分がこれからデザイナーとしてやっていけるかどうかを試すためにも、大学院に1年間の休学を申し入れ、二足のわらじで独立してみました。グラフィック分野にも興味を持ったため、さまざまな領域のデザインに首を突っ込んでみたわけです。とはいえ当然仕事はありませんから、課題を求めてさまざまなデザインコンペにも応募しました。まあデザインしたことない人が出すんですからコンペも最初は連戦連敗でしたが、次第に受賞する確率が上がってきました。その後は大学院に復学し、デザインをテーマとした論文で卒業しました。

西澤:論文のテーマは何ですか。

太刀川:論文のタイトルは「デザインの言語的認知」でした。デザインを言語学で解き明かしていくという、今でいうデザイン思考の延長のような内容でした。デザインとは何かを知りたかったので、その発想のプロセスを解き明かそうとしたのです。「デザインは言語に似ている」という仮定から、発想のルールを解き明かしていくものです。デザインがどう人に認知されているかを分析していくと、文法的なルールが見えてきました。それから、自分の中でデザインをハッキリと捉えられるようになったのか、以前よりも格段にデザインができるようになりましたね。

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