クローズアップ

【ロングセラー追跡調査】: 2015年8月号

女子高生のファッションアイテムから、大人の女性向けの成熟したデザインに

Ban/ライオン

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1962年発売。ディレクションは、ライオン宣伝部制作室。日本初の制汗デオドラント。もともと米国発のブランドだが、2001年に日本国内での商標権を含むすべての知的財産権を買収し、国内ではライオンの独自製品となった。参考価格(税別)665円(135g入りパウダースプレー)(写真:西田香織)

 ライオンの制汗デオドラント「Ban」が発売されたのは1962年(当初の表記は「ban」)。1950年代半ばに始まった高度経済成長が所得を押し上げ、2年後の1964年には東京オリンピックを控えていた。人々の暮らしにもゆとりが生まれ、人々の目は生活必需品以外へも向けられるようになっていた。

 banはもともと米国の医薬品会社ブリストル・マイヤーズ(現・ブリストル・マイヤーズ スクイブ)の製品で、当初は米国で生産した製品を、ライオンとの合弁会社を通じて輸入販売していた。そのため、当初のパッケージは米国とほぼ同じものだった。最初の製品はロールオンタイプ。容器の先端に付いたボールを肌に当てて転がすことで薬剤を塗布するものだ。女性のエチケットのための商品として、主に大人の女性をユーザーとして想定していた。

 ところが1967年に、より手軽に使えるスプレータイプを発売すると、思いがけないユーザー層に需要が拡大していった。女子中高生、特にスポーツなどの部活動をしている女子学生の間で大人気となった。

女子中高生が大きな市場に

 潜在需要を掘り起こしたbanは1976年に新シリーズ「ban16(シックスティーン)」を発売する。16歳前後の若い女性にターゲットを絞った、明るくかわいらしい色柄のパッケージだ。制汗デオドラントは「使っていることが知られると恥ずかしい」とネガティブに捉えられる可能性がある。そんなイメージを払拭するおしゃれな商品がban16だった。1985年からは香りのバリエーション展開も開始。コロンのように香りを選べるようになり、ファッションアイテム的な側面がさらに強調された。消臭効果に重きを置く従来の大人向けbanも並行して販売していたが、1987年にはban16の売り上げがブランド全体の約8割を占めたという。

 ところが、こうした若年層はユーザーの入れ替わりが早い。個々のユーザーは高校を卒業し、部活動をしなくなると商品から離れてしまうため、下から上がってくるユーザーを次々とつかまえなくてはならない。そのため、約3年ごとに大きなリニューアルを繰り返す。その時々のユーザーに何が受けるのか、何が流行っているのかに焦点を絞ったデザインだった。ロゴさえもデザイン要素の1つに過ぎなかった。1985年には表記が「ban」から「Ban」に変更されている。

起死回生のスタイリッシュデザイン

 当初は競合商品もほとんどなく、市場を独占していたBanだったが、1974年に登場した花王の「8×4」をはじめ、他社が参入し競合商品が増えると、シェアは次第に低下していく。2つの商品ラインを抱えるBanにとって、同じような香りの重複やアイテム数の多さが重荷になり始めていた。そこで1995年に両者を統合したのが「Ban SERECT」だ。

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 しかし、売り上げはなかなか回復しなかった。Ban SERECTの不振の理由の1つは、旧BanとBan16の双方のユーザーをカバーしようとして、ターゲットが曖昧になってしまったことだ。抜本的な改革が必要だった。

 2003年、Banはイタリア人デザイナー・ピエルパオロ・ピタッコ氏にデザインを依頼することで、行き詰まりを打破しようとした。このリニューアルではブランドを「Ban」に戻すとともに、スタイリッシュな大人向けデザインに大きく舵を切った。1999年に、いわゆる男女雇用機会均等法が強化・改正され、社会進出する女性が増え始めていた。女性でも1日中スーツを着て働く人が増え、汗が気になるシーンも多くなる。女性の働き方の変化の中に新しいマーケットを発見したのだ。その結果、2003年の売り上げは前年比22%増という大きな伸びとなった。

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 2011年にはさらに大胆なリニューアルを実施した。ベースカラーはマットな黒。スタイリッシュさと機能表現を両立させる狙いだ。清涼感とは対極にある黒の採用には社内で賛否両論があったというが、2011年の売り上げは前年比20%増と大きな成功を収めた。

 流行に合わせてブランドロゴさえめまぐるしく変え続けたBan16と、シックでシンプル、普遍性さえ感じさせる現在のBan。デザインはまるで対照的だが、女性の心をつかむための挑戦は姿を変えて続いている。

新旧2つのロールオン
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banはロールオンで始まったが、現在の主流はパウダースプレー。2014年発売の「Ban汗ブロックロールオン」(左)は久々に注目を集めたロールオンだ。汗の出口にふたをし、わき汗をブロックする。汗のシミに悩む女性の潜在ニーズを掘り起こし、発売から1年4カ月の累計販売個数が500万個を突破する大ヒット商品に。一方、初期のロールオンもほぼ同じデザインで販売中(右)。ロングセラーの中のロングセラーだ
(笹田克彦/ライター)

 

この記事は日経デザイン2015年8月号の一部です。もっと読みたい方はこちら

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