クローズアップ

アーキテクチュアル・シンキング アイデアを実現させる建築的思考術

「応力」の最適解の追求は、デザインにも通じる

第4回●NOSIGNER代表・太刀川瑛弼氏(後編)

 ブランディングデザイナーの西澤明洋氏が、建築系の出身でありながらも現在は建築系以外の分野で活躍するデザイナーやクリエーターなどにインタビューし、発想の原点を探っていく連載「アーキテクチュアル・シンキング アイデアを実現させる建築的思考術」。前号と今号に登場するのは、法政大学や慶應義塾大学大学院で建築を学びつつも、現在は主にソーシャルデザインの分野で活躍するNOSIGNER代表・太刀川瑛弼氏の後編。(前編はこちら

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太刀川瑛弼氏(たちかわ えいすけ)●NOSIGNER代表。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント学科特別招聘准教授。ソーシャルデザインイノベーション(未来に良い変化をもたらすデザイン)を目指し、見えないものをデザインすることを理念に総合的なデザイン戦略を手がける(写真:名児耶 洋)

西澤:今まではプロダクトデザインを考える手法として「ノザイン」があると思ったのですが、ソーシャルという分野を得たことで、ノザインの考え方がデザインオフィスの方向性にも、うまくはまった感じがします。ノザイナーの組織自体も、その後は変わりましたか?

太刀川:確かに2011年は転換期でした。プロジェクトを通して多くの社会起業家とも知り合い、一緒にプロジェクトを推進する機会が増えました。

 例えば、0歳~6歳児に向けたブランド「aeru」のデザインディレクションを行っていますが、それも2011年から始まったものです。子供のころから伝統工芸品に触れることで、日本の伝統を感じてほしいといった願いを込め、日本の伝統を示す日の丸と共に、現代の生活に伝統をつなぐために動く「和える」を表したロゴマークをつくりました。

 またNPO法人ミラツクの理事にも就任し、さまざまな社会起業家コミュニティーに関わりを持つことになりました。これは産官学民の100人のメンバーが集まる社会変革のためのコミュニティーを運営しており、ソーシャル分野でイノベーションを生むためのプラットフォームになっています。

 イノベーションを生み出そうとする人たち、いわゆる「チェンジメーカー」に接する機会が増えたのが、東日本大震災以降でした。そうした人たちと関わる中で、人を紹介したり一緒にイベントを行ったりして、距離が近くなったことでソーシャルデザインの動きが加速していきましたね。

西澤:この時期から太刀川さんは「イノベーション」といった言い方が多くなっている気がしますが、どういう意識で使っているのでしょうか?

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西澤明洋氏(にしざわ あきひろ)●ブランディングデザイナー/エイトブランディングデザイン代表。1976年滋賀県生まれ。企業のブランドから商品・店舗開発など幅広いデザイン活動を行う

太刀川:イノベーションとは、経済学者であるヨーゼフ・シュンペーターの定義に戻ると、「新結合をつくる」ことだと理解しています。これまで日本ではイノベーションのことを「技術革新」と訳してきましたが、全く意味が違います。新しい結合をつくるために技術が役に立つことはありますが、技術そのものがイノベーションではありません。

 例えるなら、カレーとうどんをつなぐことで「カレーうどん」ができたように(笑)。新結合によってうどん屋さんに関係する人が増えたのなら、それはイノベーションなんですね。ポイントは、カレーうどんをつくったことがイノベーションではなく、両者の間をつなぐことで人や社会に変化を起こしたことが、イノベーションと言えることでしょう。

 ソーシャル分野の起業家たちとの付き合いが始まり、互いに意識的に橋を架けていったのが、ちょうど震災後でした。さまざまな制度や組織が経年劣化を起こしているので、イノベーションを起こしたいという人が増えたことも、この言葉が流行した背景にあります。これまでのやり方では行き詰まりが生じているからでしょう。変化を求めていろいろな領域がつながり、その間にイノベーションの余地があるわけです。

 確かに不況かもしれませんし問題もたくさんありますが、新しいものをつくりたい僕にとって、こんなにワクワクする時代はありません。

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