クローズアップ

アーキテクチュアル・シンキング アイデアを実現させる建築的思考術

「応力」の最適解の追求は、デザインにも通じる

第4回●NOSIGNER代表・太刀川瑛弼氏(後編)

「構造」の視点でデザインを考える

西澤:太刀川さんはグラフィックやプロダクトといった分野だけでなく、社会とデザインの関係を新たに築き上げようとされていますが、そうした領域での適用も含めてアーキテクチュアル・シンキングを、どうお考えになりますか。

太刀川:建築の「構造」の視点で見れば、建築とブランディングとは似ていますね。建築では構造が非常に重要な要素になります。構造とは応力(物体の内部に生じる力の大きさ)の最適化であり、建築家の中には最適化された構造を自然界に求める人もいるほどです。そうした周囲の力の最適化が目標ならば、その感覚はデザインやブランディングにもすごく共通するものです。

 建築にとっての構造や設備・コスト・施主の意向と同じように、デザインやブランディングではマーケティング・コスト・体験など、考えるべきさまざまな要素があります。これらの周囲の関係性はプロジェクトごとに異なるので、当然デザインも変わってしかるべきです。デザイナーの中には、毎回同じような自分の表現を突き詰めるタイプの人もいますが、僕はプロジェクトの条件が異なれば、表現はその条件に最適化されるべきだと考えています。僕の場合は、そうした最適化を追求する部分に楽しさを感じているのでしょうね。

西澤:建築ですと、文脈をどう読むかが重要になってきます。今まで出てきた「周囲との関係性を読む」ということは、まさしく文脈探しだと思いますが、太刀川さんが考える文脈の範囲とは何でしょうか。時間や歴史的なことも意識されていますか。

太刀川:意識していますね。西澤さんはグラフィック畑なのでよく分かると思いますが、例えば書体の選別は文脈の話なんですよね。その書体がいつ、どこで、どんな背景で生まれたのか、それがどんな組版のルールで組まれるのかによって、文脈にはまったり、ズレたりします。新しいものをつくるときも、結局は今までの文脈にプラスされるものをつくることになるので、文脈への理解なく「何となく」で選んでいると、どこかでほころびる。似て非なるものになってしまいかねません。一般的にデザイナーよりも建築家の方が歴史や文脈を大事にしますね。文脈オタクのような人もいるくらい。そういう感覚はデザインにも必要だと思います。

 ついでに言うと、建築家はよく「解けた」といった言い方をしますが、それって、ほかのデザイン分野ではあまり聞いたことがありません。やはり、周囲の複雑に絡み合った条件を「解く」感覚が建築にはあると思います。

西澤:そうですね。「解けた」っていう感覚はありますよね。

太刀川:ありますね(笑)。その意識はデザインやブランディングでも重要で、「解けた」と感じるのは問題を分かっているからだと思います。コンテクストへの理解なくして「解けた」という状態はないんですよ。

西澤:なるほど、その説明は分かりやすい(笑)。太刀川さんはアーキテクチュアル・シンキングについて、ご自身のお仕事も振り返りながら、一言で表現するとどうなると思いますか。

太刀川:客観から入って、主観的な答えと合致させること、と言えるでしょう。必ず客観から入りますが、それを主観的な想いに昇華させるまでのプロセスがある。徹底的な客観から入っているはずなのに、良い建築は建築家の想いを反映させています。客観を強力な主観に結び付けている。

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